【オリジナル小説】ザ・グレイト・エスケイプ【第5話目】

ザ・グレイト・エスケイプ オリジナル小説

第5話 フラグが立った

「痛たた」

「大丈夫ゥ?」

「なんとかね」

 上の階に戻ったユースケは、下に通じる縦穴を覗きこみながら言った。

 肋骨にひびが入っているため前傾姿勢がつらい。落下によるダメージのせいで、自力で上ることもできなかった。即席でギプスをモモに作ってもらい、さらに担いで運んでもらった。縦穴の途中で壁を確かめたが、階はこのふたつしかなく、下まではかなり深い。

 落下した時も梯子に気づいてつかまろうとしたのだが、落下の勢いが強くて弾かれてしまった。何度も壁面に衝突したが、しかしそれがかえって良かったのかもしれない。この高さから落ちてよく生きていたものだ、とユースケは他人事のように感心した。

「それにしてもこんな大きな穴、絶対になかったよな?」

「うん、見落とすはずがないよ。さっきまでは存在してなかったねェ」アリアがうなずく。

「ここにあった壁はどこに消えたんだろう?」

 出入口扉の反対側の壁に大きな穴が空いていたのだ。その境目に触れてみても開口部の断面は平らで、壁を収納できそうなスペースはない。

「故障じゃないよなァ……」

「何度も確かめたじゃない。バグは見つからなかったよゥ」

「うーん。あちらが開けば、こちらが開かず。一方通行か」

「時間みたいに不可逆だねェ」

エントロピーの増大か。実際タイマーが作動したのかもしれないね。だけどタイミングが良すぎるな……それよりもなんらかのアクションを起こしたからスイッチが入ったって感じかも」

「それって、RPGみたいにイベントフラグを立てちゃったってことォ?」

「ゲームはしないからよくわかんないけど……自発的なイベントじゃなくて、どうにも誘導されてるような気がするんだよなァ」

「どこかからグランマさんが監視してるのかァ?」

「それなら話し合う余地があるんだけど」

「話し合いで解決できるのかなァ?」

「まァ、ここに集まったマスターたちに比べたら、ずっと話が通じそうではあるけれど……」

 ユースケは顔をあげて後ろを振り返る。

「オマエら、どうやって入ってきたんだよ!」マキオが扉を指しながら怒鳴った。

「え? 普通に正面の扉から入ったに決まってるじゃないか」モモがおどけて答える。

「そんなわけねェだろッ。その扉は開かねェんだって」

「開いてたよ。ねェ先生?」

「えェ。ユースケさんが復旧させて、開放してくれたのだと思っていましたが……」

 レッドは扉をあらためながらそう言った。

「ボクはなにもしてません」

「まあ、そうなのでしょう。そんな重傷を負っていたのでは疑いようもありません」

「扉が開いたという事実も今知りました。ふたりはモモが扉をこじ開けて入ったものだ、とてっきり思ってましたけど……違うんですね」

 それを聞いてモモは不服そうに頬を膨らませる。

「なんでも力任せってわけじゃないよ。開いてれば普通に入るさ」

「なんでその時に開けっ放しにしとかねェんだよ!」

 マキオが再び吠えた。指差したその先には外へ通じる唯一の扉がある。

 その扉は現在、堅く閉ざされている。そして例によって開かない。チップからのリクエストも受け付けないし、モモが愛用のドライバーを叩きつけても傷ひとつつけることができない。

 どうやっても開かない。

「アァハァ? やっちゃったものは仕方ないじゃん」

 モモは悪びれることなく舌をだした。自慢の愛刀が通じず、苛立っているようだ。

「ちゃんと掲示板読めよッ。使えねェ」

「書いたら必ず読んでもらえるとか思ってるあたり、お子様だよね」

「オレが書いたんじゃねェ。ユースケが書いたんだッ」

「マキオこそ、ちゃんと内容確認したの?」

「読むわけねェだろ、めんどくせェ。おいユースケッ。ちゃんと説明書き込んだんだろうな?」

「まァ、一応は……」

「ユースケさんに落ち度はありませんよ」マキオとモモの舌戦に巻き込まれるユースケをレッドがフォローする。「状況説明は的確でわかりやすかったです。しかしここは誰にとっても未知の領域ですから」

「グランマのシステムについて不明点が多すぎますよね」

 ユースケとレッドは技術談議したいと思った。

 しかしマキオがそれさえぎる。

「そんなことより今はここから脱出するのが先だろうがッ」

「そんなことって……」モモが眉をひそめた。「ここに留まって、グランマの逃走経路やマスターが消失した原因を突きとめる事が最優先でしょうに。それとも、外に出ればもっとプライオリティの高い事があるっていうの?」

「ある」マキオは断言した。

「なにさ?」

「シェルターに帰ってネトゲをやるんだよ」

「……それ、マジで言ってんの?」

 マキオは当然だ、とばかりに胸を張った。

 モモは無言で嘆息する。

「まァ、そんなに出ていきたいならひとつ良い方法があるよ」

「なんだ、あるならさっさと教えろよ。使えねェ」

「それはね――二度と再生できないように分解して、この世からもログアウトしちゃえば良いんだよ」

 モモがドライバーを両手にかまえるとマキオは瞬時に身を翻した。扉に向かって逃げていく。モモがそれを追いかけるとマキオはなにかにぶつかった。

「痛い……」

 マキオがぶつかったのモノは少年だった。

 小柄な少年は、その拍子で尻餅をついている。

「痛ェな。誰だよオマエは?」

「あ、あのボク、ジョーっていいます」

「ジョーだァ? 知らねェな、そんなヤツ」

「あァ、彼が先ほど説明した知り合いですよ」レッドは颯爽とジョーに歩み寄った。「ちゃんとたどり着けたようでなによりです。すこし心配してました」 

「グランマに運んでもらっただけだから」

 ジョーはうつむき加減ではにかんだ。普段着のまま来たのかパジャマを着ている。しかもサイズが合っていない。大きな袖に両手が隠れていた。

「あれ?」ユースケは首を傾げた。「キミはたしか――」

 彼には見覚えがある。しかしいつ、どこで見たのかは思い出せない。かつて外出した経験のないユースケにとって、ディスプレイ越しの邂逅かいこう以外にないのだが。

「誰だっけ?」

「うわァ、それってナンパってやつでしょ?」アリアが嬉々として声をあげた。「古い手だねェ。古典的だねェ。だけど相手は男の子だぞゥ」

「そんなんじゃねェよ」

「そうだよねェ。ユースケにはマリィちゃんという立派な彼女がいるもんねェ」

「いちいちつっかかってくるなって」

「だけどジョーくんってばなんだか可愛らしいよねェ。お人形さんみたい」

「アリアは憶えてないか?」

「うーん……忘れたかどうかも憶えてないから、憶えていたかも証明できないんだなァ、これが」

「いったいなんだったら憶えてられるんだよ?」

「ユースケに関することなら全部憶えてるよゥ。例えば――」

「昔ばなしはしなくていい。それよりも――」ユースケはジョーに向き直る。

 目が合うとジョーは黙ってうつむいた。対面するのが苦手なのだろう。滅多にない機会だから仕方がない。

 口ごもるジョーに代わってレッドが説明する。

「彼はジョー=ボナパルト。最初の3日間で家族全員を失った、その末っ子ですよ」

ファミリーネーム……あァ、キミは確か大家族の――」

 ジョーは消失事件3日目にして、悲痛な叫びを全世界に向けて発信した大家族のマスターだ。他人と時間と空間を共有しなくなった現代では、核家族でさえ珍しい。10人家族なんて恐竜の化石よりも希少だ。

「って言うか、オマエいつからいやがったんだ?」マキオが言った。

「さっきからずっといましたけど……」ジョーはいまにも消えそうな声で答えた。

「あァ? なんだって? 聞こえねェぞ。もっとデカい声出せ」

「ですから、なんども声をかけてたんですけど、誰も気づいてくれなくて……」

「そんな小さい声で聞こえるわけねェだろッ!」

「うゥ……これでも頑張ってるんです」

 マキオにすごまれてジョーは涙目になった。彼にとってはこれが最大音量らしい。ユースケはふたりの間に入り、怯えさせないようやさしく尋ねた。

「ジョー、さっきからっていつからなの?」

「モモさんと、そこのお兄さんが口喧嘩をしてる間です」

「彼はマキオだよ。で、そのふたりが喧嘩してたとき、扉から入ってきたの?」

「うん」

「扉、開いたんだ……」

 扉は今は閉まっている。ユースケは扉に左手をかざし、開閉を試みた。しかし結果はやはりエラーだ。

「おいおい。一度だけならまだしも、二度もミスるなんてどうかしてんじゃねェのか?」

「すみません。ごめんなさい。知らなくて、つい……」

「ついですむかッ。どう責任取るんだよ!」

「ご、ごめんなさい。許して」

 しつこく責めるマキオにジョーは必死で頭を下げた。

 ユースケはジョーを擁護ようごする。

「同じ人が繰り返したわけじゃないですし。そもそも失敗とは言いがたいですよ」

 ジョーがやってきたタイミングが悪かっただけだ。ユースケとアリアは階下を見下ろしながら反対を向いていたし、マキオやモモ・レッドは口論をしていて周りが見えていなかった。そしてリンは……気絶したままだ。

「原因があったとするなら、それは全員の責任ですね」レッドもユースケに続いた。「いや、救世主であるワタシの責任です」

「……救世主はともかく。同じフロアにいながら誰も気がつかなかったなんて。どうかしています」

「とにかく、ジョーくんが無事に生きて還ってきてくれてなによりです」

「ここはシェルターじゃないですが……ところでレッド」

「なんでしょう?」

「どうして先ほどからリンを抱っこしているんですか?」

「リンとは姫のことですか?」

「えェ、まァ……姫?」

「姫は気を失っておられるのです。救世主たるワタシが介抱してさしあげるのが当然の責務でしょう。あァ、しかしなぜ、こんないたわしいお姿に……」

 先ほど見過ごしていたことを悔やんでいるのだろうか。レッドはリンを見つけるとすぐさま駆け寄り、抱き上げるとお姫様抱っこしたのだ。

 アリアが面白そうに横から口を挟む。

「リンちゃん、ユースケのせいで気絶したんだよねェ?」

「そうでした。そこを詳しくきかせてもらいましょうか」

「いや、なにか誤解してますよ」

 マリィを巻き込んだことは事実だが。レッドが詰め寄るとユースケは両手を上げて降伏のポーズをした。

「ボクが悪いことするように見えますか?」

「見えません。いかにも貧弱ですし、チキンでしょう」

「そんなはっきり言わなくても」

「うーん……」

 リンが目を覚ました。

「おォ、気がつかれましたか? 姫」レッドはそっと片膝をついてリンをおろす。

「あら、救世主殿。ごきげんよう」

「リン、レッドのこと知ってるの?」

 ユースケがきくとリンは知らないわ、と言った。

「だけど、ひと目でワタシを姫だと看破したのなら、それはもう救世主以外にいるはずがないもの」

「……そうすか」

 初対面らしいだが、リンは姫として、レッドは救世主として、両者の間では辻褄が合っているらしい。ふたりとも自分の世界を上書きできるようだ。

「ワタシ、どうしてこんなところで眠っていたのかしら?」リンが言った。

「姫は危うく悪の親玉に傷物にされるところだったのです」

「まァ恐ろしい」

「ご心配なく。ここはもう安全です。さァ立って。仲間が待っています」

「仲間……そうだ! マリィは、マリィはどこ!?」

「マリィならここにいるよ」

 ユースケはマリィをポケットから取り出した。付着した血や油は事前に拭き取ってある。汚れを見たリンが、怪我を負わせたと疑うのではないか、と懸念してのことだ。入念に洗い、受け取った時の状態を保った。ほつれがないことも確認してある。これでも因縁をつけられたらあきらめよう。

 マリィを手渡すと、ユースケは固唾かたずんでリンの動向を見守る。

「あァ、よかった。無事だったのね」リンは緊張した顔をほころばせた。マリィを抱きしめると涙を流してよろこぶ。

「マリィちゃんが危ないところをユースケが身をていして守ったんだよゥ」

 アリアは嘘をつき、ユースケを見て片目を閉じた。あきらかに面白がっている。

「そうだったのね。ありがとう」

「いやァ、お礼なんて――」

 ユースケは顔を赤らめた。お礼を言われたことなんてないし、リンの口からそれが聞けるとは思ってもみなかった。悪い気はしないが尻のあたりがむずかゆい。

「ワタシじゃないわ。マリィがそう伝えてって。彼女、面と向かって言うのが恥ずかしいのよ」

「……あ、そう」

「とにかく、これにて一件落着ですね」

「ハッピーエンドだねェ」

 レッドが目じりを拭い、アリアも顔を綻ばせた。

「エンドじゃねェよ!」和やかな空気にマキオが水を差した。「なにも解決してねェだろッ。扉だよ、扉。現実を見ろ。全員仲良く監禁状態じゃねェかッ!」

「あら? なんだかまだ空気が騒がしいわね」リンは身を震わせながら言った。

「あら? じゃねェ! 誰が空気だッ」

「ワタシが眠っている間になにかあったの?」

「無視すんな。オレの話を聞けェ!」

 壊れたスピーカーのようにマキオが金切声をあげる。しかし、いくら叫んでもリンは応じない。

「リンちゃんってば、完全にマキオのこと嫌ってるねェ」

「と言うか、ほんとうに認識できてないんじゃあ……えっと、リン? ボクは見えてる?」

「なに寝ぼけてるんですか? 見えてるに決まってるでしょう。ほら、グズグズしてないで、さっさと説明なさい」

「……はい」

 ユースケは、リンが気絶している間に起きた出来事を手短に語った。もちろんマリィを洗ったことは省略している。

 階下への通路を発見し、食料を調達したこと。そこで管理者らしき人物が住んでいた痕跡を発見したことも伝えた。それから、新たに加わったレッドとモモ、ジョーを紹介し、全員閉じ込められた現状であることを説明した。

「――で、彼らは正面扉から入ってきたんだけど、その後はやっぱり開かなくなっちゃったってわけ」

「なるほどね」リンは澄ました顔でうなずいた。「つまり、入る時はちゃんと開いていたけど、出ようとした時には開かなかったってことね?」

「まァ、そうなるね」

 ジョーは涙を浮かべながらごめんなさい、と頭を下げる。

「べつに謝る必要なんてないわ。きっと故障も失敗もしてないのよ。その扉、外からしか開かない仕様になってるんじゃないかしら?」

「あァ――」ユースケは合点した。「入口専用で、一方通行になってるのか」

「それならエラーじゃないねェ」

「アリア、もう一度データをキャプチャーしてみてよ」

「アイサー」

 アリアが扉へ駆けていく。モモはそれを見送りながら首を傾げた。

「でもさ、それならどうやってここから出ればいいのさ?」

「他に出口専用の扉もあるんじゃないかしら?」すかさずリンが答える。

「出口なんてどこにも見当たらなかったけど……」ユースケも考えながら話す。

「最初から出すつもりなんてないのかもね」

「どうかしら? ほら、そこの階下に通じる穴だって、さっきまでは存在してなかったわけでしょう?」

「どこかに隠れているのかもしれないね。モモ、下の階に出口はなかったんだよな?」

「なかった。シェルターがあるだけで袋小路だ。ボクが確かめたんだから間違いないね」

「誰かが住んでた形跡があったのね?」

「いたとしたらその人はおそらく管理者で、最上級エンジニアだろうっていう仮説がいまのところ最有力だね」

「外出はしない主義だったのかもね」

「ひきこもるのは珍しくないけれど。管理者なんでしょう? ここを離れるわけにはいかないじゃない」

「出口を必要としなかったわけだ」

「だとしたら絶望的だなァ……」

 モモは大の字になって寝そべった。言葉づかいや仕草は乱暴だが、離れて観察するとそのボディは細くくびれている。やはり女の子なんだな、とユースケは再認識した。

 リンが話を続ける。

「それでもアクシデントを想定して非常口を設けそうなものだけど」

「そうなんだよ。設計者はグランマの完全性を盲信しすぎなんじゃないかな? 安全性が無視されてるよね?」

「そうかしら? むしろワタシにはなにか制作者の意図を感じるけれど」

誰かが描いたストーリーに誘導されてる?

「かもしれないわね」

「でもグランマはもうここにはいないわけだよ?」

「いなくてもタイマー制にするとか。イベントを起こすと発動するとか。仕組みはいくらでも考えられるわ」

 ――思考が似ている。

 ユースケは、リンのアイディアに目を見張った。

「イベントかァ……その線も考えたけど、ゲームじゃあるまいし。そうタイミング良く発生――」

 とつぜん床がおおきく振動した。縦に揺れ、次は横に。さらに微細な振動が続く。外から爆音が響いた。連続するその破裂音は遠くから響き、ボリュームをあげて近づいてくる。

「地震?」

「きゃあ!」リンが耳をふさいだ。

 揺れは激しさを増す。フロア全体が傾き、扉のある方がせり上がった。

 つかまる場所がなく、姿勢を保つこともできない。滑らかなフロアでは踏ん張りも利かず、全員奥の壁際へと流されてく。

 ユースケは両手をついてひざまずいた。とっさにケーブルを取りだしモジュラーに差す。

「みんな、ボクにつかまって!」

 マキオがユースケにしがみつき、レッド・モモ・リン・ジョーがそれに続く。ケーブルが限界まで引っ張られ、階下へ続く穴まで垂れ下がった。

 そこへアリアが突っ込んでくる。勢いそのままにユースケの顔面に衝突した。

「ぐあッ!」

 衝撃でケーブルが千切れた。スロープのように傾いた縦穴になだれ込み、そのまま全員団子状態で階下へ転げる。加速を続けながら長い長い下り坂を滑り落ちていき、最後は緩やかな傾斜と摩擦で減速し、壁に激突する前に止まった。

「みなさん無事ですか?」レッドが声をかけた。

「なんとか」ユースケが答えた。「垂直落下は避けられて良かったですよ」

「もういやだッ。シェルターに帰らせてくれよォ!」マキオが頭を掻きむしった。

「マキオってば、ただのホームシックなんじゃないのォ?」アリアがそれを見て笑う。

「コイツ、じつはチキンだよな?」モモもそれに続いた。

「なんだとォ!」

「マリィ、マリィはどこッ?」リンが叫んだ。

「ここだよ」マリィはユースケがキャッチしていた。

「あァ、よかった」

「はいどうぞ」

 ユースケはマリィをリンに手渡そうとしたが、彼女はそれを押し返した。

「いいの。ユースケのそばにいたいって」

「……そっか。えっと、ジョーは?」

「ボクもなんとか生きてます」ジョーが顔をだした。アリアの尻に敷かれている。

 しばらく断続的な揺れが続いたがそれもやがて集束した。微細な振動も止むと、ようやくフロアが水平になる。その間、一堂はしばし放心し、静寂に包まれた。

「あ――」ユースケも呆けながらただ上階を見上げていたが、あること気がつき、焦点が定まった。

 そこにあったはずの梯子がない。おそらく今の衝撃で壊れたのではないだろう。跡形もなく完全に消えてなくなっている。

「これが次のイベントかなァ?」

 アリアの独り言がホールにこだました。

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