【オリジナル小説】ザ・グレイト・エスケイプ【第4話目】

ザ・グレイト・エスケイプ オリジナル小説

第4話 エンジニアというお仕事

 睡眠と死の間に差があるとするなら、それは目覚める前の記憶が残っているか否かだけだ。

「うーん……」

「ユースケ!」アリアが叫んだ。

「……ボクは眠っていたのか? なんだか夢を見ていた気がする……ひどい悪夢だったよ。何度も何度も高いところから落ちて死ぬんだけど。その度に生き返っては落ちるのを繰り返すんだ」

「意識が混濁こんだくしてるのね。だいじょうぶ、アナタはちゃんと生きているわ。だけど骨折している個所がある。麻酔ますいは必要?」

「平気。痛くないよ。むしろ心地良いくらいだ」

 ユースケは、半覚醒状態で静かに笑った。体が自由に動かない。無理に上半身を起こそうとしたが、アリアがそれを制した。ユースケの頭を抱え、膝にのせる。

 仕方なくユースケは、横たわったまま現状を確認した。自分のシェルターではない。見慣れないシェルターだ。他人のベッドで、見知らぬ天井を見上げている。

 アリアの両手からいくつものケーブルとチューブがのびており、ユースケのボディに接続されている。口許は酸素マスクで覆われ、吐く息で視界が白くにごっていた。

 マスターは、脳を除けば、そのほとんどをサイボーグ化できる。ユースケくらいの年齢になれば体の大半をサイボーグにするのが一般的だが、しかしユースケは生身のパーツを多く残していた。

「応急処置しかできないけど」

 ユースケとアリアの間で、信号が交換されていく。人工心肺や義手など、サイボーグ化している部位に、落下による破損個所がないか診断しているのだ。

 チューブの中をいくつもの微小なパーツが流れていく。それはアリアのパーツだ。ユースケはアリアのエプロンを引っ張った。

「そんなことしなくて良いよ」

「ダメ、やらせて」

「アリアに不具合が起きちゃうよ」

「良いの。ワタシのせいだから」

 アリアの眼から保護膜液が流れ落ちる。ユースケはそれを拭った。

「お、生きてたのか?」マキオが顔を覗かせた。

「……アナタは?」

「覚えてないのか?」

「マキオ。デフラグの実行中だから静かにして」アリアがマキオを睨みつけた。

 データの復旧・整理には大量のパフォーマンスを消費する。ただでさえ意識が朦朧もうろうとしている中、マキオのだみ声は傷にさわる。

「ボクはいったい――」

「オマエ上の階からここまで落ちたんだよ」何食わぬ顔でマキオは上を指した。

「……そうか、グランマに侵入して、それで、壁を調べてるうちに落下したんだっけ。あれは……夢じゃなかったのか」

 落下したときの記憶を思い起こす。イメージが再現されると傷がひどく痛みだした。落ちている途中で何度も体をぶつけたのだ。

「ワタシのせいだよゥ」

 アリアは涙を零しながら何度もごめんなさい、ごめんなさいと繰り返した。ユースケは、めずらしく動揺しているパートナーの髪をやさしくなでる。

「気にしなくて良いよ。生きているなら結果オーライさ」

「食料もゲットできたしな」

 マキオは抱えている袋からスナックをつまんで頬張った。中にはぎっしりとジャンクフードが詰まっているようだ。スパイスの利いた香料がいかにも体に悪そうだった。

「にしてもなんだろうな、ここは?」マキオはドリンクを飲み、周囲を見回した。「この部屋だけじゃねェ。食糧庫だけじゃなくてキッチンやバスルームもあったぞ。ベッドルームやゲストルームもあるし、だれか住んでるんじゃねのェか?」

「グランマは全自動のはずですど……管理者でしょうか?」

「人の気配はしねェけどな」

 三人の息づかい以外、なにも物音がしない。たしかに無人のようだ。

「でも、もし管理者がいるなら助けてもらえるかも」アリアが言った。

「グランマについても情報が得られそうだね。アリア、ボクの体が復旧するまでどれくらいかかりそう?」

「生身のケガは全治1ヶ月くらいかしら?」

「パーツの方が動くようになるには?」

「そっちの修理はもう終わったけど……」

「なら、だいじょうぶだ」ユースケはベッドから足を下ろし、よろよろと立ち上がった。

「ダメよ。まだ安静にしてなくちゃ」

「いま何時? かなり寝ちゃってたよね?」

「午後4時だけど……」

「肩を貸して」

「仕方ないなァ。マキオも手を貸して」

 アリアが助けを求めたが、しかしマキオは「えッ? 嫌だけど」と当然のように拒否した。

「どうして?」

「だってユースケのやつ、すげェ汚れてんじゃねェか」マキオは冷たくそう言い放った。汚物でも見るような目をしている。

 ユースケの体には大量の血液が付着している。ケガによるものだ。血の臭いはコンピュータウィルスくらいみ嫌われる。

「ホントよく助かったよな。そんな状態になってまで生きてて恥ずかしくねェのか?」

「マキオッ!」

「良いんだ」ユースケは、激怒するアリアを制した。「マキオが言っていることは間違っていない」

 半永久的に生きられるマスターたちにとって、他人に死に様を見られるのは恥ずべき事だった。不慮ふりょのアクシデントでさえ軽蔑けいべつされ、病気や怪我も自己責任の放棄だと非難されてしまう。老いて朽ちていく姿を晒すなど論外だ。

 死んでしまうとは情けない。

 そんなゲームじみた台詞が現実として通用してしまうのである。だから「カッコ悪りィな」となじるマキオの誹謗中傷ひぼうちゅうしょうも甘んじて受け入れるしかない。

 ただ、しかし、だからこそ、ユースケはマキオに対して言うべきことがある

「そのくらいにしておきなさい」

 マキオの背後から男の声がした。

 男は痩身で切れ長の目をしている。真っ赤なライダースーツを着込み、髪も真っ赤だ。

「あ? 誰だ、オマエ? オレに命令してんじゃねェよ」マキオは男を睨んだ。

「具合は如何ですか?」

 男はマキオを無視し、片膝をついてユースケに微笑みかけた。男のスーツにユースケの血液が付着する。

「あの、血が……」

「お気になさらず。赤は嫌いではありませんから」そう言って男は片手を広げた。

「おい、テメェ。無視してんじゃねェよ!」マキオが男にくってかかる。

 男の襟首をつかもうと手をのばす。

 次の瞬間、ふたりの間に影が横切った。

 マキオの義手が分解され、パーツがバラバラに崩れ落ちる。圧のかかった潤滑油が噴出した。

「な――?」影を追いかけようとマキオが振り返る。

「動かないで。動くとうまく分解できなくなるから」そう言ったのはひとりの少女だった。

 影の正体だ。ハスキーでよく通る声をしている。少女は男と同じデザインのライダースーツを着ている。こちらはピンク色だ。

 少女はマキオの背後から喉元に鋭利な刃物を突き立てる。先端が平たい。マイナスドライバーだ。

 マキオは動けない。両足の関節部にはくさび穿うがたれている。

「こらこら、暴力はいけませんよ」男が少女に言った。

「コイツが先生に逆らうから」

「元に戻してあげなさい」

「でも……」

「だいじょうぶ。一度教えてあげれば同じ失敗を繰り返すことはしないでしょう」男はマキオに向き直り、笑顔で問うた。「そうですね? マキオさん」

「てめェ、なんでオレの名前を――」マキオはその笑顔を睨みつける。

 ガッ――と、鈍い音が鳴り、マキオの首が右へ半回転した。

 バキッ――と、再び鈍い音が響き、今度は左へ半回転した。

 男が握り固めたグローブでマキオを殴ったのだ。

 男は笑顔を保ったまま、力任せにマキオの首を正面に向ける。マキオの両頬には拳の跡がくっきりと残っていた。

「二度と同じ失敗は犯しませんよね? マキオさん」再び男が問う。

 マキオは無言でうな垂れた。

「ありがとう。わかってもらえて嬉しいです」男は満面の笑顔をたたえた。

「二度と先生に逆らっちゃダメだよ。じゃないと怖いんだから」少女が低い声で念を押した。「でもこんなボロボロになって、まだ生きてるなんて恥ずかしよね。さっさと死んじゃえば良いのに。あァ、それとも殺してもらいたいのかな?」

 マキオは青ざめ、硬直した。

 少女はマキオの肩に腕をまわす。アハハと勝ち誇ったように高笑いした。

「ウソウソ。安心しなよ、あとでちゃんと直してあげるからさ」

「あの……アナタたちは?」ユースケがきいた。ここの住人だろうか。

「ボクはモモ。よろしくね」少女はマキオから離れるとそう名乗った。それからおどけるように体を回転させる。身のこなしが軽い。

「申し遅れました。ワタシはレッドと申します」男も名乗り右手を差し出した。「以後、お見知りおきを。ユースケさん」

「ボクの名前を?」ユースケはレッドの手を握り返した。「もしかして、アナタたちがグランマの管理者ですか?」

「いいえ、違います」レッドが首を振った。「ワタシたちもアナタたちと同様に掲示板を見てやってきたのです」

「あァ。それじゃあ――」

 レッドとモモも消え残っているマスターだ。

「やっぱり、管理者さんはいないのかなァ?」アリアは、シェルターの扉を開けて覗きこむ。そちらはバスルームのようだった。

「とっくに消えちゃったのかもしれないね」

「管理者さんなのにィ?」

「そもそも本当に存在していたのかさえ不確定だけど……」

「いたはずなのですが……とにかく確認しましょう」レッドがモモに目くばせした。

 アイサー、と元気良くモモが返事をした。それから両手に桃色のグローブをはめ、プラスドライバをかまえる。小柄なボディをひるがえすと、シェルターから飛び出していった。

 アリアに支えてもらい、ユースケもシェルターから出る。

 シェルターの外に広がる空間は円柱の形をしていた。見上げると、筒状の壁が上に向かってゆるやかな弧を描き、ねじじれている。ここからでは上の階まで見通すことはできないが、ユースケは、この上から落ちたのか、よく助かったものだ、と我ながら感心した。

 円柱状の壁には12枚の扉がある。マキオの話では、その先は用途別のシェルターになっているようだ。円形のホールを中心に、放射状に部屋が等間隔に並んでいる図になる。

 そばで物凄い音がした。

 見ればモモがシェルターの扉を分解している。彼女が飛びつくと次々にこじ開けられていく。

「……彼女、モモって何者なんですか? すごい身のこなしですよね」

 ユースケは、金属片に戻っていく扉を呆然と見つめながら言った。

「モモはエンジニア見習いです」レッドが答えた。「ユースケさんと同じね」

「えッ? なぜそのことを?」

「わかりますとも。セキュリティが無効化してるとはいえ、グランマにハッキングできるマスターなんてそうはいません。ここに来る途中で調べさせてもらいました――」

 レッドはスーツのジッパーを下ろし、内ポケットから手帳大のカードを取り出した。ボディと一体化していない、古いタイプのデバイス。

 アカウントだ。

 しかも星が5つついている。それは世界に13人しかいないとされる、上級エンジニアの証だった。

 エンジニアは、労働しなくとも生きていける現在、真に優秀な人材しかなることを許されない、現存する数少ない職業のひとつである。任命するのはグランマで、そのサポーターとなるエンジニアに選ばれる事はこれ以上ない名誉だ。

「ユースケさんも持ってますよね? アカウント」レッドが念を押した。

「えェ、はい。おっしゃる通り、見習いですが……」

 ユースケはアカウントを保持している。

 クラスは見習いだが、それすら百万人にひとりしか合格できない狭き門である。圧縮していたアカウントを解凍し、展開してみせた。

「なんだよオマエ。エンジニアなのかよ」 マキオが怒りの矛先をユースケに向けた。

「エンジニアだったんです。今は、違います」

「はッ、どおりで色々詳しいわけだ。今思えば、趣味でハッキングしてただなんて、そりゃァあり得ないよな。凡人にできるわけがねェ。すました顔しやがって。どうせ腹の中でオレのことバカにしてたんだろう?」

「そんなつもりはありませんけど……」

「エンジニアってのはそんなに偉いのかよ? 自分たちが世界を創ってるつもりか? え?」マキオは残った左手でユースケの胸倉をつかんだ。

りないヤツだな」モモがドライバーをひるがえした。

「例えば、エンジニアは人を殺しても罪に問われないケースがあります――」レッドがモモを制し、笑顔を崩さずゆっくりと、ユースケとマキオに歩み寄った。

 静かに足を運び「一つ目はグランマに対するテロ行為――」冷たく言葉を放つ。

「二つ目は、エンジニアの任務に対する妨害行為――」それら所作のすべてがユースケに死を予感させる。

「ユースケさん。それにマキオさんも。共に罪を犯している。このままでは、ワタシはアナタたちをデリートしなければならなくなってしまいます」

 レッドがふたりの肩に手をのせる。その指先から伝わる殺気は本物だ。

 エンジニアには、有害なマスターを排除する権限が与えられている。仮面のように貼りついた笑顔はさながら、冷徹に鎌を振るう死神のようだった。

 マキオは虚勢きょせいを張ることをやめ、体を震わせた。

「オレたちを殺すのか?」

「殺しはしません。動けなくするだけです」

「同じ事じゃねェか」

「決定的に違います――」

 生きたまま動けなくするだけです、とレッドは言った。

「ほんとうは誰にもひとの命を奪う権利などないのです。グランマを除けば、ですがね。しかし今はそのグランマが不在ときている。そうですね、ユースケさん?」

「はい」

「なら、争っている場合ではありません。協力、していただけますね?」

 ユースケは殺気に臆することなく無言でうなずいた。

「それはよかった」レッドは禍々まがまかしい殺気を払拭ふっしょくさせ、柔和な笑顔をつくった。

 こおりついた時間が動きだす。

「しかしユースケさん。なぜアカウントを隠すのです?」

「権力を振りかざすために取ったわけじゃありませんから」

「使わないのであれば辞退すればよかったものを」

「そのころは欲しかったんでしょうね、きっと……」

「なぜエンジニアを目指されたのです?」

「さて、どうしてでしょう? 忘れてしまいました」

「アリアさんに確認すれば記録されているのでは?」

 ユースケは黙ってアカウントを仕舞った。

 名誉のみの無償で奉仕することになるが、それでもこれを持っていれば普通のマスターにはない特典が受けられる。グランマがバックについている以上、その権力は絶大なのだ。

 金に価値がなくなった時代において、マスターが欲するのは自己表現自己実現自己満足のみだった。世界を創る側とそれを享受する側、そのどちらがより高みにいるかなど考えるまでもない。

「いずれにしても、ボクはリタイアしたんです。モモみたいなマネはできませんよ」

 モモはドライバを器用に使い、ロックされている扉を強引に壊して侵入していく。世界を創造する側とそれを破壊する側があるとしても、エンジニアにそんなスペックは要求されない。レッドも彼女を見て苦笑する。

「彼女はハード専門ですからね。体力が要求されるんです。しかしそれだけではありません。彼女が使っている義肢、あれは彼女の自作オリジナルなんです。そのスペックは既成の最高級パワードスーツと比較しても遜色そんしょくありません」

「いろんなエンジニアがいるんですね」

「えェ。世界は広いですから」

「レッドは……どうしてエンジニアになったのですか?」ユースケは恐るおそるきいた。

「ワタシは創造主になりたかっただけです」

「えッ――?」

「冗談です」

「冗談、ですか?」

 ジョークです、とレッドは笑った。しかしそのセリフは迫真だった。

「ワタシは生まれつき救世主となる運命を背負っているのです。ですから創造主にはなれません。しかしワタシが来たからにはもうだいじょうぶ。あとは安心して任せなさい」

「はァ……」ユースケは曖昧に相づちをうった。

 くせの強いマスターが残っていたな、とひそかに思う。

「やっぱり誰もいませんね」モモが扉から顔を覗かせた。

「すべて確認しましたか?」レッドがきいた。

「はい先生。隠れられそうなところは全部分解してみました」

「出入り口は?」

「部屋はすべてこのホールにしか通じていません。出口はホールにある、上に通じるこの梯子はしごだけだと思います」

 ホールの上部には無機質なライトが等間隔に並び、不躾ぶしつけなほど明るく照らしている。その灯りをうように梯子は上へとのびていた。隠れられる場所はなく、出口も上階に通じる梯子だけとなる。

「そうですか」レッドはユースケに向き直った。「どうやら管理者も消えてしまったのでしょうね」

「実在していたと思いますか?」

「どうでしょう? いたのであれば、間違いなく管理者は最上級エンジニアだったのでしょうが……ぜひお目にかかりたかったものです」

 最上級エンジニア。世界で唯一、直接グランマと交流することが許されたマスターだ。その存在はグランマと並んで神に等しかった。

「いたんじゃないですか?」モモが部屋から顔をだした。「生活の跡が残っていますし」

「本当ですか?」

「ほら」そう言ってモモは鋼鉄製の小さな箱を掲げてみせた。

 ユースケはそれをモモから受け取る。

 ハードディスクだ。

 現在では使用されなくなった記録メディアである。掌に収まるサイズだが型は古代の遺物並みに古いタイプだ。現在入手できるような代物ではない。

「これ、どこにあったの?」

「書斎みたいな部屋にすっごく古いマシンが置いてあったから分解してみた。ねェ、この中解析してみればなにかわかるんじゃない?」

「そうだけど……えっと、本体は?」

「うん? 分解バラしたけど?」

「……中身だけあっても読み出しできないじゃないか」

「そうなの?」クリスは首を傾げた。

 最近の読み出し装置は使えないだろう。貴重なソースが台無しである。

「他に目ぼしいものは?」

「とくに、なにも……」

「申し訳ありません。そそっかしいもので」レッドがモモの代わりに頭を下げた。

「まァ、外に出られればなんとかなるかもしれませんけど……」

 端から順番に破壊されたてはたまらない。ユースケはハードディスクをジャケットに仕舞った。

 レッドのパーソナルウィンドウが開いた。着信だ。二言、三言と会話を交わし、話し終えるとレッドはウィンドウを閉じた。

「もうひとり、知り合いが到着したようです。さて、どうでしょう。一度みなさんで集まりませんか?」

「そうですね。情報も整理したいですし」

「ユースケさんがお連れの方は、マキオさんとアリアだけですか?」

「いえ。リンっていう女の子がもう一人いるんですけど……あれ?」

「リンちゃんなら上で気を失ってるよォ」アリアがユースケの言葉を継いだ。「ユースケがマリィちゃんを道連れにして落ちちゃったからねェ。それ見て卒倒しちゃったんだよゥ」

「リンさんは上にいて、マリィさんはここにいるのですか?」レッドが眉をひそめる。「それは気がつきませんでした。マリィさんの姿も見当たりませんが……」

 ユースケはジャケットからマリィを取り出す。心なしか預かったよりも重く感じられた。

「えっと、マリィは人形なんです。リンはこの人形を人間だと思い込んでるんです」

「あァ、なるほど」

「いるよね、そういう人」

 レッドはあっさりと納得し、クリスもそれに同意した。

「ふたりとも驚かないんですね」

「べつに不思議な事ではありません。誰だって画面の中の救世主に憧れたり、人形とごっこ遊びをするでしょう?」

「いえ、そういった擬似体験ではなくて」

「単身で生活を営み、機械と人間がボーダレス化している昨今において、擬似体験はリアルと交換可能になりつつあるのですよ。つまり、他者との関係をどう捉えるかという認識の問題なのです

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