【オリジナル小説】ザ・グレイト・エスケイプ【第2話目】

ザ・グレイト・エスケイプ オリジナル小説

第2話 設計ミス?

 コンピュータも試行回数を増やせば計算を間違うことがある。

 原因は内外的な要因が多数挙げられるが、巧妙なアルゴリズムによって間違いは補正されている、という事実はあまり知られていない。しかし、

「ダメだな」ユースケは扉の前で座りこんだ。

「ダメみたいだねェ」アリアもそれにならって隣に座る。

 いくら要求を繰り返しても扉は開かなかった。命令しても、お願いしても、脅しても、すかしても。まるで反応がない。最終的には、力任せにこじ開けようとも試みたが、それもダメだった。押しても、引いても、叩いても、持ち上げてもビクともしない。

 ユースケたちはグランマの中に閉じ込められてしまった。

「ダメダメだな」とマキオが唾棄だきする。

 開かない扉に対してではなく、扉を開けられないユースケたちに向かってだ。マキオはとっくに諦めているようだ。泣きべそをかくリンに背を向けたままフロアに寝転がっている。

 ……困った。

 ユースケはまだ帰るつもりはないが、このままだとユースケかマキオのどちらか、或いは両者共に消失してしまうまでずっと顔を合わせてなくてはいけなくなる。いよいよとなれば最後の手段も残されているが、他に選択肢はないものかと辺りを観察した。

「他に出入口ってないのかな?」

「ないねェ」

 アリアが間髪かんぱつを入れずに切り捨てた。

「でもここって薄暗いしさ。見落としてる可能性はない?」

「ゼロだよ。入ってきた時に壁も床も、全部確認したじゃないかよゥ」

「そうだけど。常識的にはフェールセーフが働くよう設計してると思うんだけどな」

「まあねェ、そうだねェ……おかしいよねェ」

「おい、フェールセーフってなんだ?」マキオが訊いてきた。

 だらしなくたるんだ腹をいている。いかにも暇そうだった。

「フェールセーフというのは、システムが誤作動を起こした場合に安全を確保するための信頼性設計のひとつですよ。今回のケースなら、出口を一か所しか設けないのは問題があります。非常用の出口を複数用意しておくべきなんですよ」

「オレたちがやって来るなんて想定してなかったんだろ」

「それならそれでフールプルーフに反してますよ」

「フールプルーフ?」

「これも信頼性設計のひとつです。ユーザが間違った使い方をしても危険性が及ばないように設計しておくことです」

「違いがわかんねェ」

システムエラーヒューマンエラーの差ですよ」

「どっちにしても原因はグランマが仕事を放棄したせいだろ?」

「完全に放棄したとは言い難いですが……現にこの内部、薄暗いとはいえ照明は点いてますし、空調も利いてます」

 ここにいないマスターもいる。外でも最低限のシステムは機能しているはずだ。

 フォールトトレラントだねェ、とアリアが言った。

「フォールト……なんだって?」マキオは腹を仕舞って座り直した。「さっきから意味のわかんねェ言葉並べてんじゃねェよ」

システムの一部に問題が生じても、全体が機能停止しないようにするための設計手法ですよ。つまり、扉が開かなくてもグランマの全機能が損なわれたわけじゃないはずなんです」

「よくわかんねェけどよ、けっきょく使えねェってことだろうが。グランマもたいしたことなかったんだな」

「そんなことはないと思いますけど……」

 人類は、グランマに依存するようになってからこれまで、何不自由なく生活してこられた。意識することなく生存が保障され、当然のように便利な環境がお膳立てされていたのだ。しかし、その自由を失って、初めて気がつくということはままある。快適さの裏で安全を、そして自由を保障している存在が多くの労力を払っていることを忘れてはならないのだが。

「それにしてもマキオってば全然言葉知らないんだねェ」

 アリアは、マキオに聞こえないようにそっとユースケに耳打ちした。多少距離を置いているとはいえ、ここにはなにも障害物がないからひやひやする。

「いや、普通はこんな用語知らなくて当然だけど……」

「ユースケはなんでそんなこと知ってるのォ?」

「なんでだっけ? 忘れちゃったな」

「そうやってすぐ誤魔化ごまかす」

「とにかく。優秀なシステムっていうのは、マキオに限らずユーザの気づかない点まで安全設計が施されてるものなんだ。グランマには厳しいようだけど、こんな事態が発生するのはシステム設計に対する予測、あるいは配慮が足りなかった証拠だよ」

「グランマさん、ナルシストっていうの? よっぽど自信家だったんじゃなァい?」

「だろうね」ユースケは首肯した。

 でなければ世界を統治する重役など務まるまい。

「だけど、人間はミスを犯すし、予期しない行動もとる。誰もが天才的で、間違えない人生を送ってるわけじゃないんだ。マシンだって時間が経てばいつかは壊れる。そういった可能性を折り込んでなかったわけだから――」

「空気が読めないんだねェ」アリアはユースケの言葉を引き継いで言った。

 それはすこし違う気もするが。しかし、ユースケは腑に落ちない。全知全能の人工知能がそんなミスを犯すだろうか? 否、違う。それはグランマのせいではない。

「グランマの設計者って誰だっけ?」

 ユースケはアリアに訊いたが、彼女は驚いて振り向く。

「えッ? そんなのいつの時代の話だよゥ。忘れちゃったよゥ」

「忘れるなよ」

 アンドロイドのくせに、と思いつつユースケも彼女にインプットしたかどうか思い出せない。

「じゃあマキオは――」

「オレが知ってると思うか?」

「……ですよね」

 きくまでもなかった。

「あとは……」ユースケはリンの様子をうかがう。

 リンは、泣き止んではいるものの、マリィを抱いたまま顔を伏せている。話に交ざる気はなさそうだった。

「聞いても無駄か」

「とにかく、プログラム的なエラーは発生してないよ」アリアはきっぱり断言した。

「じゃあ物理的な故障かもしれないな。配線のショートとか」

「そうだとしたら、壁の中を調査するための超音波設備や修理するための工具が必要だねェ」

「さすがにそこまでは装備してこなかったよ」

「超音波設備なんて持ってたんだ!」

「うん……まァ……」

「知らなかったよゥ。そんなもんなにに使ってるのさ?」

「まァ、いろいろと……」

 怪しいなァ、使途不明だなァ、と言ってアリアは半眼になった。

 ユースケは天井を仰いだ。どうも到着した時より照度が下がっている気がする。ここには窓がない。照明だけが頼りなのだが。

「グランマさんはもう自己修復はしないのかなァ?」アリアもつられるように見上げた。

「しないだろうね。逃げちゃったわけだし……」

「消えるまでずっとここにいないといけないのかなァ? 不便だなァ……なんだか死刑執行を待つ囚人になった気分だよゥ」

「そのわりに空調が利いてて快適だけど」

 しかしそれもいつ止まるかわからない。それより、換気がされなくなると異臭が充満するんじゃないだろうか、とユースケはマキオを盗み見ながら心配した。消失するより窒息する方が現実味のある恐怖だ。

「これから電力が低下していく度にサービスが制限されていくんだろうな」

「使える機能が残ってる間になんとかしたいよねェ」

「機能ねェ……」

 なにが残っているだろう。ユースケは腕組みをしてうつむいた。

「……ケータイ」

「うん?」

 かすかに声がした。

「バッテリーがまだ残ってるなら使えるはずです」そう言ったのはリンだった。

 鼻をすすり、目を合わせようとしないが、ちゃんとユースケたちの話を聞いていたようだ。

「そうか、まだ集まってない連中に物資を調達してもらえれば、なんとかなるかもしれないね」

「ついでに外の様子も知りたいよねェ」

「よし、アリア。ケータイ貸して」

「うん? ワタシそんなの持ってないよ」

「えッ?」

「ユースケが持ってるんじゃないの?」

「いや、持ってないけど……」

 これまで使う機会がなかっためユースケはケータイを持っていない。リアルで話す相手はアリアだけだった。

「それじゃあみんな、どうやってここに集まったのォ?」

「どうやったんだっけ?」

 ユースケは、ネット上の緊急掲示板で誰ともなく呼びかけているのを見て現地集合しただけだ。いつ、何人集まるのか確認もしていない。マキオやリンがそれを行ったとも思えない。今日消失したマスターの中にいたのかもしれないが。リーダー不在の杜撰ずさんな計画だ。まさに烏合うごうしゅうである。

「たぶん、誰もまとめてないよ」

「そうだったっけェ? ……あ、じゃあパソコンは?」

 ユースケは無線LANを使える。しかし、

「メーラーもメッセンジャーもインストールしてないや」

「チャット、チャットは?」

「……」相手がいないから以下同文だった。

「うひゃァ! このボッチさんってば肝心な時に役立たず!」頬に両手を添えてアリアは絶叫した。

 マスターに対する台詞ではない。さらに、

「使えねェ」とマキオに追い打ちをかけられ、そして、

える」とリンにとどめを刺された。

 しかしみんな同じ穴のむじなだろう、とユースケは反撃を試みる。

「じゃあマキオやリンはケータイかパソコン持ってきてるのかよ?」そう二人に問い詰めた。

「持ってるわけねェだろ。そんな使えねェもん」当然のようにマキオは言い、

「持ってるわよ、ケータイなら」とリンは言った。

「ほら、二人とも同類――じゃない?」

「リンちゃん、持ってるのォ?」アリアがきいた。

「持ってるに決まってるじゃない」

 ウソだ。

 ユースケとマキオが同時に言った。それを聞いてリンはふッ、とわずかに口角をゆがませた。

「当然よ。お友達・・・とお話するのに必要でしょう?」

 ゆらりと体を起こし、三人をさげすむようにあごをあげた。スカートのポケットを叩き、それから左手を耳にあてるジェスチャをした。リンの掌に光子が集まり、小さな箱が現れる。

 リンは、最新モデルのケータイよと自慢げに見せびらかし、それから軽快にキーを操作した。

 空間内にコール音が響く。

「うん?」アリアが首を傾げた。

「どうした?」

「リンちゃん、誰にかけてるんだろうねェ?」

「そりゃあ……お友達にだろ?」

 ユースケは意外に思ったが、それは偏見でしかない。しかし、なんとなく敗北感は否めない。

 コール音とは別に着信メロディが聞こえた。

「あれ? 音が近いな」

「ってか、ここで鳴ってねェか?」マキオが耳をそばだてる。

「でもボクたち誰も持ってませんよ」

「もしかして他に誰か来てるのか?」

「誰もいないように見えますけど……」ユースケは目を凝らす。「アリア、赤外線モードに切り替えて」

「アイサー」

 ユースケが命令するとアリアの瞳がオレンジから赤に変わる。暗視用になったのだ。

 アリアが薄暗い空間を見渡し、ユースケはそのデータをパソコンから確認する。しかし人の姿は映らない。誰もいない。映像を諦め、耳を澄ませて音の発信源を探った。それはリンのすぐそばから聞こえている。

 まさか――

 リンがマリィの上着のポケットを叩くと着信音が途絶えた。

「もしもしマリィ? そうワタシ、リンよ。さっきは大丈夫だった? ケガしてない?」

 リンの通話相手はマリィだった。いつの間にかマリィの耳元にも同じ機種のケータイが出現している。

 リンはマリィを抱きながら一人で話しはじめた。

「そっかァ。よっぽど怖かったのね。でも大丈夫。ワタシがお願いしたから、マキオは消えてなくなったわ」

「いや、オレここにいるけど……」

 マキオは開いた口をどうにかふさいで言った。しかしその訴えはリンの耳には届いていないようだ。彼女の中ではすでに、存在自体が削除されているのだろう。

「そうよ。嫌なモノは全部削除しちゃえばいいのよ。だいじょうぶ、マリィにはワタシがついてるじゃない。えッ? さっきみんなを探さなくちゃって言ってたじゃないかって? あれはウソ。ほら、システムを維持させる人は残しておかないと不便じゃない」

 道具よ、道具、とリンは言った。

 表情も仕草も、セリフも真に迫っている。マリィとの会話が楽しいようで、リンは声をだして笑った。彼女の高い声が反響する。その周波数に揺さぶられるようにユースケは身を震わせた。

「……アリアさん?」上擦った声でアリアを呼ぶ。

「なんでしょうかねェ、マスター?」

「マリィさんのケータイから音波は発信されていらっしゃいますでしょうか?」

「ううん。ワタシの耳が確かなら、マリィちゃんのケータイからは一言も発信されていないようですよゥ」

「脳波も?」

「脳波も音波も発してないけど――」

 ボクの知ってる人形と違う……。

 遠巻きに観察する限りマリィは、ユースケが知識として知っている人形と変わらなかった。しかし、

「ほら見て、マリィ。ユースケがワタシたちのことうらやましがってるわよ」

 ユースケの視線に気づいたリンはマリィを向けてそう言った。

 リンのなかでは自分とマリィが主役の世界が構築されているのだろう。一瞬マリィと目が合い、彼女の世界に取り込まれるのではないか、とユースケは恐れおののいて顔をらした。心なしかマリィの瞳も輝いているように思えたのだ。ただのガラスファイバなのだが。

 まァいいや、とマキオが言った。

「とにかくケータイが使えるんなら外の連中と連絡が取れるんだよな?」

 すでに現実に折り合いをつけているようだ。妥協するのが得意らしい。

「おいユースケ。さっさとアイツのケータイ使って連絡取れ」

「ボクが?」

「オレはアイツにとってすでに消えた存在みたいだからな。オレには交渉不可能だ」

「くッ――」

 うまく逃げやがって。他人のテリトリーに土足で入れる男だと見込んでいたのに。ならばとユースケはアリアを推す。

「やっぱりここは女の子同士、アリアが適任だと思うな」

「セクハラです。マスター」

「マスターの命令ですが、なにか問題でも?」

「普通にパワハラですが、なにか?」

「くッ、このスレイブが……」

 どこでそんなセリフ覚えてきたんだ。

 アリアはユースケの脳波を読み、自宅警備員時代に少々、とまし顔で言った。

 そんな女のたしなみみたいに言われても困惑するばかりである。

「まァいいよ。時間もないしねェ。貸してもらってくるよゥ」

「助かる」

「勘違いしないでよね。ユースケのために借りてくるじゃないんだからねッ!」

 アリアはユースケを睨みつけた。しかし、その目の奥は笑っている。

 だた言いたかっただけだろう。

 それでもエプロンドレスをはためかせ揚々ようようとそのボディを弾ませる後ろ姿は楽しそうだった。同性と話すのが初めてだから率直にうれしいのかもしれない。笑顔でリンに話しかけている。

「思ったより使えそうだな。オレも帰ったら一体注文してみるか」

 アリアの後ろ姿を眺めながらマキオが呟いた。グランマが停止した現在、注文しても届けてもらえる保証はないのだが。

「スペックはどうなんだ? 性格とかよ」

「どうと言われても……」

 アリアのマスターであるにも関わらずユースケは詳しく把握していない。女の子にプライベートな質問をしては失礼なのではないか、と躊躇ためらってしまうのだ。

 ただ、アリアは市販されているスレイブと比べてユニークなのではないか、と考えている。仕様書も読まず、比較対象もいなかったため不確定なのだが。実際、ユースケの命令に逆らったり、自分の意見を主張したりするので答えてもらえない可能性が高い。

「なァ、試しに一日だけアイツ貸してくれよ」

「それはちょっと……」

「なんでだよ?」

「モノじゃないんですから」

「モノじゃねェか」

 そうなのだけど――

「自我はありますよ、アリアは」

「じゃあ、本人がオーケイって言えばいいんだな?」

「うーん……」ユースケは腕組みをして考え込んだ。

「お、戻ってきた」

 アリアが軽快にけてくる。ユースケは思考を中断し、首尾をたずねた。

「どうだった?」

「断られちゃった」

「えェ? なんで?」

「友達じゃない人には貸せません、だって」

 アリアは恥ずかしそうに笑ってペロリと舌をだす。頭を掻くとそれから項垂うなだれた。ショックだったらしい。

「う、うん。ドンマイ」

「どうせワタシに心なんてありませんよゥだ」

 アリアは背を向けてしゃがみ込む。指で虚空をなぞりだした。

 ……めんどくさいなァ。

 ユースケはアリアの背を見ながら、やはりボクが交渉しないダメか、とため息をついた。

「うーん。貸してくれないのならリンがかけてくれないかなァ……」

「お願いしたよゥ。でも、そうしたら……」

「そうしたら?」

「じゃあリンちゃんがかけて、って言ったら、友達じゃない人と話したくありません、だって」

「言ってる場合か」

 ユースケはすこしボリュームをあげた。

「あ、でも。かわりにユースケと話がしたいって」

「えッ? オマエ、アイツの友達なのか?」マキオが一歩退いた。

「いや、初対面ですよ」

 そして、できればこれからもお友達になりたくないのだが。

「ボクが話しても変わらないでしょうに」

「言ってる場合じゃないんでしょう?」アリアが反論する。「条件次第で貸してあげてもいいってさ」

「な、なんだよ条件って?」

「さァてねェ? でもほらほら、早くしないとリンちゃん待ちくたびれてるぞゥ」アリアはにやけながら言った。あきらかに意趣いしゅ返ししている。

 しかし他に選択肢が残されていないのも事実だ。仕方なくユースケはリンのもとへ歩み寄る。そのうなじからかすかに甘い香りがした。マキオのそれとは違って清潔な印象だ。香水を知らないユースケは、それがデフォルトなのだと思い込んだ。

 ユースケはリンの顔を覗きこむ。

「あの、リン? ケータイ貸してくれるってホント?」

「……」リンは目を伏せたまま答えない。

「えっと、友達以外とは話したくないんだって? なら、ボクと友達になろう」

 おそらくそれが条件なのだろう。そう予想したため、ユースケは自ら申し出た。友達でもなんでもなってやろうじゃないか。すでに仲良く監禁状態の運命共同体なのだ、となかば捨てばちになっている。しかし、

「なる必要はありません」とリンはきっぱり拒絶した。

「えッ? でも、それじゃあ話ができないじゃないか」

「友達じゃなくたって、必要なら話しますよ。当たり前じゃないですか、大人なんですから」

 ……それならさっさと電話してほしい。断られたらそれはそれで傷つくじゃないか、と主張したかったがユースケは口をつぐんで続きを待つ。

「でも、アナタがどうしても友達になりたいって言うなら、なってあげてもいいですよ?」

「……オーケイ」

 釈然としないがとにかく交渉は成立である。

「じゃあ、友達としてケータイ借りるね」

 ユースケはリンのケータイに手をのばす。

 リンはその手をぴしゃりと叩いた。

「待って。条件次第って言ったはずよ」

「えッ? 友達になるのが条件じゃないの?」

「違うわ」リンは言った。「でも、友達ならワタシのお願い聞いてくれるわよね?」

 ユースケは逡巡した。しかし自ら申し出た挙句、ケータイを手にしようとした手前、あとには退けない。

「オーケイ。その条件ってヤツを教えてくれ」

 これ以上厄介なお願いもしないだろう、とたかくくった。

 リンは視線を落とし、頬を赤らめて言う。

「彼氏になってくれたら貸してあげる」

「えッ?」まさかの申し出にユースケは声を裏返した。「友達じゃなくて? 彼氏?」

「か、勘違いしないで。ワタシじゃないわよッ。ワタシじゃなくて、その……」

「ワタシじゃなくて、って? リンの他に誰が――」

 まさか。ユースケはリンの視線を追った。

 まさか。まさか――

マリィが彼氏になって欲しいって

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