おじいちゃんとの思い出の話【約2,800文字】

オリジナル小説

おじいちゃんとの思い出の話

 わたしのおじいちゃんは遠くへ行きました。

 大好きだったおじいちゃんは、もういない。もう会えないってことを理解できたのは小学三年生くらいだっただろうか。

 さらに幼かったころ、お父さんもお母さんも忙しく働いていたこともあって、わたしはしょっちゅうおじいちゃんのところに預けられていた。いま思えば、おじいちゃんっ子だったわたしに両親がしてくれた最大限の配慮はいりょだったのだろう。

 思い起こせば、わたしはおじいちゃんの葬儀そうぎにも参列さんれつしていた。そのときは何の集まりだったのかよく分からなかっていなかったのだけれど……。

 そのことをお父さんに聞いたらこんな答えが返ってきた。

遠く旅立ったおじいちゃんを見送るための集まりなんだよ」と。

 わたしもいっしょに行きたかった、って駄々だだをこねたのをいまでも覚えている。

 悲しくて切なくて、その日は一晩中ひとばんじゅう泣いた。

 一人でさみしく過ごした幼い日のわたし。

 そんなわたしをゆいいつ、大きなやさしい手で受けとめてくれたおじいちゃん。

 高校一年生になったいまでも、この手はおじいちゃんがくれたぬくもりを覚えている。いまでもまだ、頭のどこかでまた会えると思っている。

 つらいときはおじいちゃんの眠っているお墓に愚痴ぐちをこぼしたこともあった。もし、おじいちゃんが聞いていたらどう思うだろう……教室の席からぼんやりと外を眺めながらそんな想いにふける。この季節になるといやでも思い出してしまう。

「ミカ、今年のクリスマスはどうする?」幼馴染おさななじみのクラスメイトがわたしに言った。

「……あぁ、えっと、そうだね。今年はパス」

「今年『も』でしょ。だけど、うん、そっか。それじゃあみんなには適当な理由をつけて断っておくわね」

「ゴメン」

「いいよ、いいよ」級友はこまったような笑みを浮かべながら手をふった。「うん……分かってる。だけど、来年こそはいっしょにクリスマス祝おうね」

善処ぜんしょするよ」

「楽しみにしてる」

 そう言ってわたしに気遣いつつ校門をあとにする。

 わたしも帰路につく。

 心苦しいけれど、わたしはクリスマスをたのしい気分で過ごすことなんてできそうにない。

 クリスマスはおじいちゃんの命日なのだから。

 毎年この日が近づくと、どうしてもわたしはおじいちゃんの顔を、声を、あたたかい手を思い出してしまう。だからクリスマスのお誘いは受けられそうにない。

 そしてクリスマスイブ。

 例年どおりアルバムを広げ、わたしはおじいちゃんとの思い出にひたった。

 いっしょにスイカを食べている写真。

 いっしょに絵本を読んでいる写真。

 いっしょにブランコに乗っている写真。

 いっしょに……いっしょに……。

「おじいちゃん……」

 また会いたい。

「ミカちゃん、ミカちゃん。聞こえるかい?」

 どこかからわたしを呼ぶ声がした。よく知ったなつかしい声だ。

「……おじいちゃん? おじいちゃんなの?」

「そうだよ」

「ほんとうに?」

「ほんとうだとも」

 そう言っておじいちゃんはわたしの髪をなでた。

 大きくてやさしい手。

 まちがいない。たしかにおじいちゃんだ。

「会いたかった」

「わしもだよ」

「どこへ行っていたの? どうやって帰ってきたの?」

「ミカちゃんのワシを呼ぶ声が聞こえたから。特別に許してもらえたんだ」

「だれが許してくれたの?」

 おじいちゃんはなにも言わず窓から空を見上げた。

 その先には見慣れた月が浮かんでいるだけだ。

「いつもわしのことを思い出してくれていたんだね」おじいちゃんは言った。

「当り前じゃない。大好きなおじいちゃんだもの」

「ありがとう、すごくうれしいよ。でもね、ミカちゃんはもう高校生だろう? わしに縛られるのはそろそろやめにしないか」

「いやよ。どうしてそんな悲しいことを言うの? わたし好きでやってるだけなの」

「今日はね、ミカちゃんにあやまってさよならを言いに来たんだ」

「謝るって何を? おじいちゃんは何も悪いことなんてしてないじゃない。それにさよならだなんて……」

「わしがもう一日でも長く生きてれば、ミカちゃんはみんなといっしょのたのしいクリスマスを過ごせただろう」

「おじいちゃんのせいじゃないよ」

「それでもわしを許してほしい。そしてミカちゃんのくちからさよならを言ってほしい」

「いや。絶対にいや!」

「もう時間がない。どうかわしの願いを聞き届けてくれないか」

 月明かりに照らされ、おじいちゃんのからだが透けていく。

「わかった、わかったから行かないで」

 そう、わかっている。

 こればっかりは叶わないということを。

 死んだ人間は生き返らないということを。

 この奇跡の夜が長く続くはずがないということを。

 こんなふうに一人で祈り続けるような過ごし方をしても、おじいちゃんはきっと喜ばないだろうってこともわかっていたけれど……。

 言えなかった。

 その言えなかった言葉をいま言わなくては。

 もう二度と伝えられないかもしれない。

 わたしはおじいちゃんに抱きついて叫んだ。

「わたしもさよならが言えなかったことずっと後悔してた。会えてよかった。うれしかった、だけど――」

 だけど。

「さようなら、おじいちゃん」

 さようなら。

「ありがとうミカちゃん。これでわしも安心して旅立てる」おじいちゃんはやさしく微笑んだ。「ああ、もう時間のようだ。それじゃあミカちゃん、さようなら――」

 そこでわたしは目覚めた。

 アルバムを広げたまま、いつの間にか眠ってしまっていたのだ。

 これは……夢オチ? 

 それにしてはものすごくリアルだった。

 ほんもののおじいちゃんと会ったかのようだった。

 ……いや、ほんとうにおじいちゃんと会えたのだろう。

 伝えれなかったさよならも言えた……のかな?

 心に溜まっていたおりが消え、せきを切ったように涙があふれた。

 しずくがアルバムにこぼれ落ちそうになり、慌てて手ですくう。

 だけどその必要はなかった。

 開いたアルバムのうえに見慣れないハンカチが置かれている。

 わたしはハンカチを手にし、涙をぬぐう。

 ふ、とやさしい匂いがした。

デコ
デコ

 ちゃんと言いたかったことを伝えられて良かったね(ノД`)・゜・。

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