初恋の人との結婚した話【約3,000文字】

短編集

初恋の人との結婚した話

 私の初恋は小学校1年生のときでした。

 相手はクラスメイトの帆香ほのかさんです。

 読書が好きで、清楚な色合いの洋服に身を包み、おっとりしている印象でした。

 今振り返ってみると、容姿の好みや、賑やかなものが苦手という私の性格にどストライクだったと言えますが、当時はなぜ彼女を好きになったのか理解できていませんでした。とにかくそれが当たり前すぎて、大好きになった理由を知ろうなんていう発想自体が出てきませんでした。

 ここで初恋エピソードとして、甘い思い出の数々を語りたいところですが、当時の私は恥ずかしくて彼女を直視することができず、遠くから視界に取り込むことで精一杯でした。

 ※

 しかし、そんな私に幸運が待っていました。

 小学校2年生のバレンタインデーのことです。

 放課後、帰宅しようと校門を出たところで、待ち伏せしていたであろう帆香さんが突然目の前に現れました。

 驚きと、初めて至近距離で彼女と対面した緊張で私は硬直しました。

 彼女は私にチョコレートを手渡した後、すぐに走り去って行きました。

 心ここにあらずの状態のまま帰宅した私は、改めてチョコレートを見つめ、何が起きたのかを咀嚼そしゃくし始めました。

 さらにチョコレートのパッケージの隅っこには、小さな文字で『ほんめい』と書かれていました。

 彼女からはっきりと好意を示されていると分かり、人生で最高の喜びと自己肯定感が体中を駆け巡りました。

 私はあまり記憶していませんが、母いわく、その日はその後しばらくの間、チョコレートを掲げたまま家中を走り回っていた、とのことです。きっと、オリンピックで悲願の金メダルを取ったかのような気分だったのでしょう(経験がないので分かりませんが……)。

 ホワイトデーには、百貨店のもよおしで母の協賛きょうさんを仰ぎながら、厳選に厳選を重ねたびん入りのクマさんのクッキーをお返しすることにしました。

 放課後、クラスメイトたちとの井戸端会議を終え、ようやく一人になった帆香さんを呼び止め、クッキーを手渡しました。

「はいっ!」としか声を発することができず、彼女同様、私もすぐにその場から走り去りました。

 小学2年生の私は、好意を持つ者同士が交際するという状況を知らないため『両想い=ケッコン』という知識しか持ち合わせていません。

 私と帆香さんはお互いに相手のことが好きだということから、このまま大人になれば結婚して、両親のように夫婦になるものなんだと思いこみ、謎の安心感に包まれた日々を送っていました。

 しかし、小学校3年生の初夏、転機が訪れます。

 父親の仕事の都合で、急遽、東京へ引っ越すことになったのです。

 引っ越し前の最後の登校日、クラスでお別れ会を開いてもらい、友だちや先生からは手紙を書いてもらいました。

 3年生になったタイミングでクラス替えをした結果、帆香さんとは別のクラスになっていたため、彼女には挨拶どころか、引っ越しのことすら話すことができないまま、離れ離れになってしまいました。

 ※

 その後、私は大学を卒業し、会社員になりました。

 両親は既に地元へ戻っていましたが、私は東京で一人暮らしをしながら仕事を続けていました。

 その間、何度か恋愛もしましたが、やはり帆香さんのことを忘れることはありませんでした。

 そのうち私は東京での生活に疲れ、地元の企業にUターン転職することにしました。

 地元での仕事に慣れてきたころ、ある日私はふと、帆香さんはまだ地元にいるんだろうか、いったい何をしているんだろうかと気になりました。

 彼女の所在に関しては、家が私の実家と反対方向ということくらいしか知りません。そこで、今でも連絡を取り合っていた地元の友人に、彼女と連絡が取れる方はいないか尋ねてみました。

 友人はすぐには思い当たらなかったものの、後日、数名の知人を経由し、なんとか帆香さんに取り合ってもらうことができました。

 彼女も私の名前を憶えていてくれたらしく、本人から承諾を得て、連絡先を教えてもらうことに成功しました。

 帆香さんは、地元の大学を出て就職し、今も地元で働いているとのことでした。

 それからしばらく当たりさわりのないやり取りを続けたあと、思い切って帆香さんを食事に誘うことにしました。

 彼女と会うのは、小学校以来なので、およそ20年振りの再会です。

 待ち合わせ場所に現れた帆香さんは、当時の魅力そのままに、さらに大人の雰囲気が加わって、ほんとうに素敵でした。私のなかでは小学校のころの無邪気な姿のままで時間がとまっており、私だけ小学生のままタイムマシンで未来に来てしまったかのような感覚に包まれ、思わず立ち尽くしてしまいました。

 食事をしながら、当時の思い出話を弾ませ、楽しい時間が過ぎていきます。あの先生が面白かった、あの授業が苦手だった、クラスメイトの誰々が今こんな仕事をしているらしい、などなど……。

 私は、あのバレンタインデーの日のことを覚えているか、訪ねてみました。

 帆香さんは、私と同じようにはっきりと覚えていました。

 お互いの記憶の答え合わせをするように、ゆっくりとその日の出来事を話します。

 そして、勇気を振り絞って私の思いを伝えました。

「あのときから気持ちは変わりません。お付き合いしてください」

「私で良ければ。よろしくお願いします」

 こうして私は夢見心地のまま、帆香さんとの交際を始めました。

 帰り道では、このままどこかで目が覚めて夢だったと思い知らされるのではないか、あるいは事故にでも遭うのではないかと思うほどその状況が信じられませんでした。

 その後、1年の交際期間を経て、私からのプロポーズの結果、晴れて帆香さんと結婚することができました。

 小学2年生にして『帆香さんとケッコンする』と思いこんで以来、およそ20年越しの夢が叶ったのです。

 結婚式では、帆香さんが招待した友人の中に、私たち共通のクラスメイトも数名いました。すっかり大人になったクラスメイトたちに囲まれ、タイムスリップした気分に浸りました。

 ※

 現在は、お互い働き盛りということもあり、共働きの慌ただしい毎日を送っています。

 そんな中でも、バレンタインデーやホワイトデーになると、当時渡したお菓子に似たものを探してみたり、当時の思い出話をしてみたり、元クラスメイトならではの過ごし方をしています。

 小学生のころはほとんど話ができなかったため、価値観や好み、性格については、あまり深く知らないまま帆香さんを好きになっていました。

 正直なところ、じつは性格が合わなかったとか、将来の人生設計がかみ合わなかったとか、結婚生活には現実的な問題もたくさん待っているんじゃないかと思っていました。

 しかし、結婚して数年経った今でも帆香さんは理想そのものです。

 小学校の頃に彼女を大好きだった気持ちもそのまま変わっていません。

 むしろ大人になってから、いろいろと真剣に向き合うなかで、より明確な理由をもって、帆香さんが好きだと思える場面が増えたため、小学生のころの『理由はよくわからないけれど大好き』という気持ちに比べて、今はより現実的な気持ちとして捉えることができるようになりました。

 小学生だった私はそれを肌で感じて、直感で帆香さんの魅力にかれたのでしょうか。ほんとうに縁とは不思議なものだなと思います。

本田奈那子
本田奈那子

 ずっと想っていた人と結ばれるなんて素敵ね(*´ω`*)

遊び心
遊び心

 願うだけじゃなく、叶えるために行動したことが運命を引き寄せたんじゃないかな。

コメント

タイトルとURLをコピーしました