なついてくれない野良猫を、なでるまでの話【約2,700文字】

オリジナル小説

なついてくれない野良猫を、なでるまでの話

 会社帰りの道すがら、僕は一匹の野良猫を見かけた。

 マンション同士の隙間にある公園で、夜の散歩中っぽい、白と茶色のまだならな猫だった。僕の視線を感じたのか、猫はピンと尻尾を立てて振り返った。

 そして、

「にゃ~?」

 と鳴いた。

 残業続きでちょっと疲れていたのだろう。僕は猫に話しかけられた、と感じた。

 いや、変人扱いを恐れずに言えば、あの猫は誘っているのだと思った。妄想? きっと僕の脳が疲れているから? まさに僕は残業で魂が削れている。

 だがしかし。違うんだ。

 さっきの「にゃ~?」はわりと疑問形だったはずだ。うん、そうに違いない。

「もふる?」とか「なでてくれるの?」とか言っていたに違いない。

 や、疲れきっている僕の顔を見て、一緒に遊ぼうと誘ってくれているのだ。

 公園の常夜灯に照らされ輝くあの毛並み。きっと、ふわっふわ。もふもふしているに違いない。

 ……や、色々と言ってしまったけど。僕は、あの野良猫をさわりたい。なでたいのだ。

 もう、自分を止められなかった。

(僕は……あの子を! もふる! もふるんだ!!)

 そんな魂の叫びに従い、野良猫に近寄った。公園の入り口のガードレールみたいなやつをハードル選手みたくまたいでいく。

 僕のあふれるパッションが、足を動かす。ちょっと小走りに、駆け寄った。

 それが、いけなかったのかもしれない。

「あ……ぁ……」

 僕の口から自然と溜息みたいなものが漏れる。

 だってさ、だってだよ?

 野良猫さん……秒で逃げたんだ。振り返りもしない。公園の茂みを通り、ビルの谷間へと。僕が追って来れないように、狭いところ狭いところへと逃げってったんだ。

 フラれてしまった。

 僕はすこし傷つき、

「に、にゃぁ~」

 とか言ってしまっていた。なぜ、鳴きまねみたいなことをしたか、自分でも分からない。呼び戻せるとでも思ったのかも。分からないが、ひとつだけ分かったことがある。

「……こわっ」

 そんな悲鳴みたいなものを残した通行人にも走り去られていたのだ。

 今夜の僕はとにかく、猫にも人間にも逃げられるヤツだったってことだ。

 ※

 帰宅して落ち着きを取り戻した僕は、それでも野良猫にフラれた悲しみのふちにいた。

 猫による悲しみは猫でいやすにかぎる。

 とゆーことで、猫動画ざんまいな夜だった。僕が出来なかった猫もふ動画を見ながら思う。

 猫はかわいい。

 や、かわいいという言葉では言い足りない。

 猫のかわいさを言い表せる日本語が欲しい。猫専用の単語だ。逆に、なぜ無いんだろう? 怠慢たいまんだぞ、昔の日本人め。いや、違うか? あぁ、僕に作れってことか、神さま。粋なはからいだぜ、やってやる!

「にゃわいい」

 本日二回目の、安易な猫語をアホな僕が口にしたところで、猫動画でこんなテロップが流れた。

 猫は急に近づくと怖がる。

「あ……」

 今夜の僕がやらかしたことを指摘してくれたテロップは、まだ続いた。

 猫からすると人間は巨人。やはり、怖い。

「……」

 そうなのだ。やはり、僕はアホなのだ。逃げたしまった野良猫。あの子が悪いのではない。僕が悪かったのだ。

 ※

 翌日から僕の戦いが始まった。

 相変わらず残業続きだったが、僕には問題がなかった。むしろ仕事を終わらす、というテンションでこなしきった。

 目的はただひとつ――あの野良猫を、もふることだ。

 残業を鬼のようなスピードで終わらせ、帰り道で、僕はあの公園に通りがかった。

 で。

(……いた)

 散歩コースなのかもしれない、白と茶色のまだらな野良猫。ちょっとした運命を感じる。

(昨日の僕ではないんだ……)

 謎に大きすぎる自信と決意とともに、一歩を踏み出す。分かってる。急には近づかない。ゆっくり。あくまで、歩み寄るのだ。

 と、野良猫が気づいた。今度は鳴いてくれない。昨日のこともあって、警戒しているのかもしれない。

(……ごめんね、昨日は怖がらせて)

 で、ゆっくり近づく。そろり、そろり。歌舞伎役者にも負けないくらいに、そろりさで。

(おお……逃げない)

 野良猫は逃げない。僕を待っているかのようだ。

 人間からすると二、三歩ほどの距離まで近づけた。

 そして膝を折って、かがむ。

 野良猫は逃げない。

(……いける)

 手を伸ばすも――問題発生。

(手、届かない)

 くっ、みたいな顔が出たのかもしれない。

 イラっとしてしまったのが、伝わったのかもしれない。

 野良猫は、あっけなく逃げてしまった。

 今度は、僕は鳴かなかった。通行人には見つからなかった。

 まぁ、今夜はそれでいい。昨日よりは、野良猫さんに近づけたのだから。

 ※

 その夜以降、僕は情報収集しながら、試行錯誤した。

 猫は匂いに敏感と聞けば、消臭剤を使用した。ダメだった。

 猫は音に敏感と知ればキャッシュレス化した。それでも、逃げられた。

 猫は男性が苦手となれば女装……は、さすがにしなかったけども。

 僕の努力もむなしく、そもそも公園にいないこともあった。

 でも、敗北の日々が続き、ふと気づいた。

「お疲れ様ですー」と挨拶して、社外に出てふと思う。

(……挨拶)

 僕は検索する。

(あった……まじか)

 ――そして、試したのだ。

 何度も振られた公園で、僕はついに。

(……おぉ)

 膝立ちの姿勢、猫との距離は保ちつつ。

 僕は人差し指を曲げ、その第二関節あたりを、猫にゆっくりと突き出していた。

(……すげぇ)

 猫は興味深そうに、曲げられた僕の指の匂いをかぐように、近づいてきたのだ。

 そう、向こうから、猫さんの方からお近づきになってくれたのだ。

(猫の……これが挨拶か)

 なんかバカみたいに感動していた。

 猫同士では鼻をつきつけあって、互いのにおいを確認する。

 それが猫の挨拶らしい。

 僕の折り曲げた指は、猫からすると鼻の形に近いらしい。

 つまりは、僕は今、猫に対して「こんばんわ」の最中であるわけで。

(僕は今、猫式の挨拶が出来ている……!!)

 感動が深まる。思ったよりも、猫の鼻息が凄いけど。ふしーふしーって、僕の指にかかってくるけど。

 それでも良いのだ。

 猫は、くてんとその場に転がってくれた。

 なんか知らんが挨拶が終わって、僕の意図を認めてくれたのかもしれない。

「……」

 僕はついに、ついにだ。

 野良猫さんをもふることが出来たのだ。

 指の間を流れた猫の毛並み。猫が目を閉じる、気持ちよさそうに。もしかしたら、僕のもふりを採点するかのように。

 期待には答えねば、と僕の気分はマッサージ師、あるいは美容師に。かゆいとこはありませんか? と必死にご機嫌を伺いながらもふっていく。 

 かわいい。うん、にゃわいい。

 アホみたいに浮かれつつ、僕は野良猫を思う存分、もふもふっとさせてもらいました。

 猫、飼いたいな~と僕の次なる夢が出来た夜の話でした。

デコ
デコ

 人間ってみんな猫好きだよね~(ฅ^・ω・^ ฅ)

本田奈那子
本田奈那子

 まあにゃ~(=>ω<=)❤

遊び心
遊び心

 わささんは小説を書いているから表現力も豊かでおもしろいね( *´艸`) 興味が湧いたらぜひ他の作品も読んでみて!

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