※本記事には、ネタバレが含まれています! ご注意ください!
天才になれなかった全てのひとへ

このマンガのキャッチコピーといえば、やはりコレ☝しかない!
『天才』という言葉に心が動く方には、ぜひともおすすめのマンガです!
『左ききのエレン』のレビューを書いていきたいと思います。
主人公は広告会社に勤めるデザイナー、朝倉光一。20代半ばのサラリーマンの彼は、まだ駆け出しであり、自分のミスを上司にフォローしてもらう毎日。
けれど学生時代からのやりたい仕事のために、日々、悪戦苦闘しています。
そんな光一が仕事を必死に頑張るモチベーションとしているのは、かつて出会った絵の天才。その名は山岸エレンです。のちに世界的な評価を受けて、200万ドルという値がつけられる作品を作るほどのアーティストとなる彼女。
光一はエレンの『絵』に高校生のころに、出会いました。
出会いのきっかけとなったエレンの絵はグラフィティアート、いわゆる路上の『落書き』でした。
や、批判は待ってくださいませ。マンガなので。加えていうならば、昔の話であり、今のようにネットに投稿が無かった時代設定なのです。そのぐらいしか手段が無かった、といえば伝わるでしょうか。
とにかく、高校生だった光一は、同じく高校生だったエレンの描いた絵に『衝撃』を受けます。
10年経っても忘れられないほどの、衝撃的な『感動』です。
10年経っても、忘れられないほどの何か。
どなたにもあるかとは思います。
たとえば、初恋の方もいらっしゃるでしょう。
あるいは、ファンだったアイドルという方もいらっしゃるでしょう。
昔に夢中になったゲーム! という方もいらっしゃるかもしれません。
光一はエレンの『絵』でした。

個人的にはよく分かります。ちょっとだけ自分語りをさせてもらうと、僕は小説を書いていまして、そのきっかけになる作品がありました。その作品の感動が今でも心に残っています。
エレンの『絵』に光一は強い憧れを抱きます。
今まで見たどんな『絵』とも違って『カッコいい』。
光一は、いわゆる中二病を患っていて、だからこそ、エレンに『勝負』を挑みます。昔の少年ジャンプの世界ですね。ドラゴンボールのような熱い感じです。
ですので、光一は『絵』を書きます。『絵』を通じて、エレンに会おうとしていました。
グラフィティアート、路上の落書きの世界では、上手いヤツは『誰かの絵』に上書きして良いという暗黙のルールがあります。
だから、上書きされないかな、と光一は何処かで期待していました。
自分で上書きすればいいのに……と思った方もいらっしゃるかもしれません。
や、でもね。
光一はエレンの『絵』をリスペクトしているんですよ。敵わないと分かっている。そんな感じに尊敬と恐れが混ざりあっているんですな。
もっと言うと。
光一はただただ会いたかったんです、エレン本人に。
面白かったマンガの作者に話を聞いてみたい、みたいな感情ってあるとは思うのですが……僕はそんな感じに解釈しています。

少なくとも僕は本当に面白かった作品って、作者に話を聞きたくなるんですよね。
みなさんはどうなのでしょう?
で、光一が描いた『絵』の前で、2人は出会います。
ただし。その出会いは、良いものではなかったんですよ。
光一はエレンに『絵』のクオリティの低さを『酷評&罵倒』されてしまいます。
……エレン、ひどくね? と思った方に、一応、エレンの心情を説明させてくださいませ。
エレンは『絵』の世界に進むことに恐れを抱いていたんですね。
エレンの父親が売れない画家でした。日々の生活も大変ですし、母親は仕事で疲弊しているし、何よりも父親自身が『絵』を描くことに苦しんでいました。
なおかつ、父親はエレンに画家として成功することを期待していました。
幼少期、エレンは絵を描くのが好きでした……14時間休みなく描き続けるほどに。
……はい、引きますよね。普通の親ならば。子供の体を心配して、やめさせてしまうかもしれないです。
ですが、父親はエレンの集中力に『才能』を見出します。絵を描かせようとします、父親自身が出来なかった画家としての成功を期待して。
エレンという名前は漢字にすると『絵恋』です。
父親がかけてくる『期待』がただの重圧……呪いとして、エレンの心を蝕んでいました。
『絵』を描いても描いても報われない、そんな現実も父親が見せてくれています。
だったら、スパっと『絵』をやめればいいよね……とは、エレンはならない。
エレンは自分よりも『絵』が上手い人がいないと感じていました。どの『絵』を見ても、下手に感じると。
まぁ……凄いっすよね。でも、マウンティングではないんですよね。
本当に自分よりも絵が上手い人がいないと感じていて、むしろ苦しんでいました。
自分よりも『絵』が上手い人がいれば、『絵』を諦められるから、です。
父親のように自分も他人も不幸にせず、生きていけるからです。
だからこそ、エレンは光一の『絵』に期待してしまったのです。自分よりも『絵』が上手ければ、諦めがつくと。
でも、違った。
光一の『絵』はむしろ、『下手』でした。
エレンは光一を罵倒します。絵の世界で生き残っていくこと、画家として生きていくことが一万人に一人くらいであるという『現実』を突きつけて。
光一はそれでも、言い返します。
やらないと分からない、と。自分は何かになるんだ、と。
そうでなければ、退屈で生きていけない、と泣きながら。

……僕も分かってしまいます、この感情。というか、僕もそうでした。高校生くらいの時でしたか、何となく授業も退屈だし、友達と遊ぶのも楽しいけど、何となく物足りない、と。
分かる方には伝わるかと。
もしかしたら、今、そういう想いを抱えている方もいらっしゃるかもしれません。
学生であれば学校生活が、社会人であれば自分の仕事が物足りない、このままでいいのかな? というヤツですな。
さて、光一の話に戻すと。
エレンに叩きのめされても、光一は諦めませんでした。絵を描き続け、実力の差も無視して、エレンを勝手にライバル認定して突っかかっていきました。
そんな高校生時代の気持ちのままに、光一はデザイン会社にてグラフィックを描き続けています。エレンの絵への憧れを、心の底に燻ぶらせてライバルとして張り合おうとし続けています。
エレンはエレンで実は光一の『絵』ではなく、光一の熱意に影響を受けていました。光一に勝手にライバル認定されて、煽られたからです。
『絵』を描く人間はエレンを天才だとして『上』に見るだけなのに、光一だけが隣に並ぼうとしてくれている。
高校時代の光一との時間が、絵を描き続けるきっかけに、世界的なアーティストになるきっかけになったのです。
光一とエレンが共にいた時代は、高校で終わります。
でも、2人はそれそれに生きていく中で『絵』を通じて、影響し合います。
直接会ったりすることもなく、『絵』のみで話し合うみたいにして。
さてはて。
凡才と天才の絆が織りなす『左利きのエレン』の魅力、少しでも伝わると僕も嬉しいです。

イラストを描かれる方や、別の創作している方、創作しようとしている方には間違いなく、おすすめのマンガです。
創作あるあるの共感やら、才人が何か能力者ふうに描かれたりとしてマンガ的に面白かったりなど、僕が書ききれなかったことも、たくさんあります!
よろしかったら是非とも、お手に取ってくださいませ!
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