【オリジナル小説】絆マリオネット【第1話】

絆マリオネット オリジナル小説

第1話 花のように舞う

 バトル開始と同時に両者の頭上にホログラフが浮かぶ。

 パラメータがふたつ表示され、それらの値がのびていく。

 ひとつ表す体力《HPヒット・ポイント》。

 もうひとつはマリオネットの動力源である蒸気の残量を示す《SPスチーム・ポイント》だ。

 勝敗はどちらかのHPかSPがゼロになった時点決着する。

 ルールはシンプルだが、しかし技を使えばSPの減りが大きくなるし、と言って通常攻撃だけではなかなかHPを削れない。勝負の鍵は、いかに自分のSPの消耗を抑えつつ、相手のHPをどうやって奪うかにかかっている。このバランスが難しいのだが、要するにSPが尽きる前に倒してしまえばいい。そう考えるのが一番わかりやすい。

 準々決勝の対戦相手は木蓮もくれん

 鍛えたボディにうぐいす色のビキニ。まとう蒸気は遠目にも充実しているのがわかる。

 木蓮は長いポニーテールをゆらし、腰にさげた大小のつばに指をあてがった。

 一歩足を前に出し、ゆらりと前傾する。その緩慢かんまんな動作から一転――

「ゆくぞ!」

 気合の入った声をテント内に響かせ、長物を抜刀するや一直線に駆けてくる。

 私も空になった水筒を捨て、スク水のお尻の部分をなおす。両手に鋼鉄製のグローブを握りこみ、ふたつに縛った髪を揺らしながら蒸気の雲を引いて猛然もうぜんと突っ走った。

 ポイントゲージはまだMAXに届かないが、試合が始まればそんな悠長なことは言っていられない。

 リングの中央に一気に詰め寄り、両者が真正面から激突する。

 頭上から振り下ろされた刃をクロスした両腕のグローブでガードする。

 その衝撃で風が巻き起こり、スチームが霧散した。

 眼前に光るは木蓮のウェポン・ギア。波打つ紋様が特徴のサムライブレードだ。

 対する私のギアは両手両足に装着しているグローブだ。

 生身ならば一刀両断だろうが、攻防一体のギアが盾となり木蓮の矛を受け止める。

 だが腕力は相手の方がやや上か。わずかに押し込まれる。

 それでも私はつば迫り合いに応じ、両者のギアがしのぎを削った。

 火花が大きく飛び散る。

 火の粉が顔にかかり、木蓮がわずかに視線を逸らした。

 その隙をついてグローブを刃先に滑らせ前に踏みこむ。リーチは私の方が短いが、もともと矮躯わいくに設計された超接近戦タイプなのだ。体が触れる距離での戦闘に持ち込めればこちらのものだ。

 ギアを奪おうと刀のつかに手をのばす。

 だが木蓮はそれを嫌い、腕を引いてギアをいなす。返した刀とともに身をひるがえし、回転するようにギアを水平に薙ぎ払った。

 私は屈伸して下に避ける。風でなびく後ろ髪が数本斬られて宙を舞う。

 ふところにもぐるため低い体勢のままサイドステップで体を左右にふる。

 距離を詰めようと爪先つまさきに力をこめたが、今度は低い角度から刃が迫ってきた。

 下段から振り上げられた切っ先を上体を反らしてかわす。

 だが顔をあげたところにはもう次のひと太刀たちが――

 一直線に放たれる鋼鉄の刃が蒸気を纏いつつ私の喉元に喰らいつこうとしている。

 上半身をよじってことなきを得たがしかし、向いた方角が悪かった。

 視界の先に木蓮の姿がない。

 見失ったか――いや、

 うしろだ。背後から鋭利な殺気が静かに振りおろされる。

 私はとっさにうしろ回し蹴りを繰りだす。木蓮が残したわずかな蒸気の道筋を眼の端で捉え、太刀筋を予測したのだ。それは見事に的中し、上段からの斬撃をはじく。

 だが、致命傷は避けられたが、すべての衝撃を吸収することはできなかった。

 力強いひと振りに圧しきられ、体勢が崩れる。

 回転しながらうつ伏せに倒れると大きく広がった人影が頭上を覆う。

 私は瞬時に両手を着いて跳躍した。すぐさまその場を離れたが、しかしわずかに避けきれない。

 斬撃が左肩甲骨付近をかすめ、いくつかのリベットがはじける。胴体と左腕を繋ぐびょうだ。稼働は問題ないが、多少ぐらつく。HPを削るには心許ない。全力で左を放つと腕がもげてしまいそうだ。

 距離こそ開いたものの、私の負傷をみて好機と判断したのか、木蓮が息つく暇なく接近してくる。長い脚をしならせ、蒸気を巻きあげながら颯爽さっそうと駆ける様は蒸気機関車さながらだ。

 だが追撃はさせない。

 リングに片膝を着けたまま、私も蒸気を発する。攻撃に転じなければ勝機は見いだせない。

 片手で逆立ちすると大きく開脚しながら旋回する。彼女の脇腹めがけて踵を見舞った。袈裟懸けさがけにギアを振り下ろす木蓮の攻撃をぎりぎりのタイミングですり抜け、その長身にカウンター気味に入れる。

 剣技によほど自信があるのだろう、攻撃に重点を置いている代わりに防御は薄い。ビキニも軽量タイプだ。多くの熱を逃がしながらも抜群の耐久力を兼ね備えたアーマード・ギアだが肌が露出している部位に攻撃が入ればダメージは大きい。

 いまの一撃で木蓮のHPがぐっと減った。

 だが、リング端まで蹴り飛ばした分こちらも反動を受けて転げた。

 木蓮もすぐさま立ち上がる。そうとう腹筋を鍛えてあるのだろう。蹴った感触だけでもそれが伝わった。精神的なダメージもなさそうだ。

 互いに体勢を整えてかまえなおす。

 ここまでの応酬に要した時間はバトル開始から数十秒。

 息もつかせぬ攻防に静まり返っていたギャラリーがいっせいに湧いた。

 カメラを搭載した鳥型のビースト・ギアが数羽、奇声を発しながら上空を旋回している。ギアが捉えた映像は場内外に設置されている巨大なスクリーンに映され、対戦者の姿がアップで映し出される。

 カメラが捉えている木蓮の表情にはまだまだ余裕がみられる。

 HPとSPとともに表示されている彼女の数字がわずかに減り、逆に私のものは増えた。

 私たちに賭けられたオッズだ。

 二分割された画面にふたつの数字が表示され、倍率は常に激しく変動している。ネット上にリアルタイムで配信され、場内外からベットされているのだ。

 いまは木蓮のほうが少し小さい。つまり大勢が彼女が勝つと信じているわけだ。

 私は冷静に、木蓮の動向に気を配りながら、頭上のポイント表示を確認した。

 HP、SPともにやや私のほうが消費している。

 左腕の損傷だけでなく、足技を使ったためだ。

 決勝まで隠しておくつもりだったが、さすがに順々決勝まで勝ち残っているだけのことはある。木蓮は、これまでの対戦者と比べて格段に強い。

 懐に潜り込みさえすれば私のレンジだが、そこは相手も研究しているようだ。なんとかすきをつきたいがかんたんには油断してくれそうにない。さて、いかにしてあの剣さばきを封じるか……。

 思案に暮れていると客席から下品な野次が飛んできた。

 アナウンサーも興奮気味にまくし立てている。

 何事かとみてみれば、切られた肩口のミズギが垂れさがっている。

 私は慌てて繕い、露出した肌を隠した。

 くそう。火照った頬を冷やそうとよけいにSP消費してしまった。

 私のミズギはスク水タイプで面積が広く、接近戦用に特化しているというのに、それが一撃で破壊されるなんて……木蓮のギアはなかなか業物わざもののようだ。

 解説者もマイク越しに饒舌じょうぜつだ。

 いまどき体術のみで闘うマリオネットなんて珍しい。自力で持ち運べる蒸気機関ならばミサイルだろうと戦車だろうと使えばいいのに、などと言ってわらっている。骨格に制限があるからそれは不可能とわかっているのに。

 まったく、性質たちの悪いジョークではないか。

 ドヤ顔が眼に浮かぶようだ。

 しかし回を重ねるごとに派手なウェポン・ギアが主流となりつつあることはたしかである。体格を規格の上限ギリギリまで大きくしてバズーカ砲や大金槌を持ち込むマリオネットもいるくらいだ。

 もちろんルール上は問題ないが、しかし私はギアに頼りすぎるのはよくないと考えている。

 スチームの消費が著しくて消耗戦の泥仕合になりがちだし、離れて撃ち合うだけなんて興醒めもいいところだ。もちろん勝たなくては話にならないが、カッコよくない。

 ご主人様が創ってくれたボディを最大限に発揮して闘うからこそ美しい。

 どんなにしいたげられようと、マリオネットだって美学を持たなければいけない。心に信念を持つ者こそクイーンにふさわしいではないか。

 私はそう思う。

 そんな心意気などただの傍観者ギャラリーには伝わらないだろうけど……。これが競技であれば道を説くことも受け入れられるかもしれない。しかし、

 QoMはスポーツでも武芸でもない。

 たんなるショーだ。

 娯楽に飢えた人間たちを楽しませるためのエンターテイメントなのである。

 だから、ひしめき合う場内には今日も多くの人間が観戦に訪れているけれど、彼らが期待するものと私が思い描く理想とは大きな齟齬そごがある。

 表向きはルールのある闘いだが、ひとつ裏返して人の皮を剥ぎ取れば、そこに渦巻くのは獣じみた本性が垣間見える。 彼らの性根に巣食うのは強欲、憤怒ふんど、そして色欲か――。

 はッ――、くだらない。

 唾棄だきすべき水分すらもったいない。

 なぜこんな余興で同士討ちをしなければならないのか……、敵はもう地上のどこにもおらず、闘う理由なんてどこにも見つからないというのに。

 だが悔しいことに、戦禍を乗り越えた今、存在意義を失ったマリオネットや傀儡師くぐつしが口にのりをする手段は限られている。

 ろくな選択肢はないが、それでも私は幸運な部類のマリオネットだ。

 私はちらりと後方を顧みる。

 そこには私の挑戦を応援してくれているご主人様の姿が。

 ご主人様は、世界傀儡師協会WMAのリュウキュウ支部からライセンスを受けているオフィシャルな傀儡師だ。

 QoMに出場できるのもそのコネクションのおかげといっていい。私は、ご主人様によって創られたからこそ、道を踏み外さずにすんでいるのだ。さもなければいまごろはどこぞの娼館しょうかんに身をやつしていてもおかしくない。

 それを思えば道化を演じることなど造作もないことだ。

 だけど、ご主人様はQoMに出場することさえ渋っている。

 相手を蹴落とした勝者だけがファイトマネーを受け取り、次のステージに進める弱肉強食のうたげ。そんな世界に私は籍を置いているのだ。心配してくれるのはありがたいが、戦うために造られたマリオネットの身を案じても栓方あるまい。私が闘わねば、私が勝たねばご主人様はどうなる? 

 私はご主人様を路頭に迷わせたくない。

 闘いたくはないけれど、クイーンになれば、傀儡師には研究開発費という名目で莫大な報酬と名誉が与えられる。

 そしてマリオネットには束の間の自由が

 ならば是が非でも目指すしかない。

 私は早くこのしがらみから、

 このジレンマから解放されたい。

 そのためにはなんとしてもあとみっつ、眼前に立ちはだかる木蓮と、準決勝、そして決勝で待つ絶対的女王に勝たなければならない。

 絶対に勝ちたい。

 束の間のインターバルを終えると私は、高鳴る鼓動に合わせて蒸気をあげる。拳を握り、好敵手めがけて疾駆しっくした。

 木蓮はリング端から中央に寄ったところでギアを中段にかまえ、静止した。SPの消費を抑えるためか、あるいは迎え撃ってのカウンター狙いか……だが、

 私の作戦は変わらず、目標の懐に潜っての接近戦だ。愚直とののしられようがこれが一番性に合っている。

 ただし真っ直ぐ向かっては相手の思うつぼだ。

 小さな躰をさらに丸め、左右に振りながら弧を描くように駆けていく。足技をみせたあとだから警戒されているだろうが、脚力にものをいわせて攪乱かくらんさせる。

 木蓮の周囲を渦巻き状に旋回しながらギアチェンジを繰り返す。

 SPの消耗は激しいが、ダメージを受けた左手の蒸気を抑え、代わりに脚力にパラメータを振り分ける。蒸気をまき散らしながら徐々に接近しつつ速度を増す。

 その間も木蓮はあくまで不動のかまえをみせ、鋭い眼光のみをこちらに向けている。

 余裕をかましていられるのも今のうちだ。

 きしむ歯車をフル回転させ、ギアをトップに切り替える。速度計が振り切ったところで木蓮の反応速度を上回った。

 旋回を止め、ステージを蹴って直角に跳ぶ。

 木蓮の後方斜め78度。

 背中を取った。

 空中で右脚をしならせハイキックを見舞う。

 爪先が目標のうなじを捉え、入ったかにみえた――

 が、しかし命中する寸前で弾かれる。

 木蓮はみねに手を添え、刀を背負うようにして受けきった。

 私の土踏まずが刃に触った瞬間、彼女はその鋭利なギアを引き斬る。

 金属同士が激しく擦れ合い、甲高い擦過音が響き渡る。強烈な周波数とともに振動が全身を伝わった。

 一瞬爪先が切断されたかと思ったが、しかしビーチサンダルを模したギアはなんとか持ちこたえる。サンダルはアーマード・ギアの一種だが、脚にかかる負荷を考慮して、レガートよりも強固に設計してくれているのだ。

 木蓮もこれには驚いたようだ。眼を見開き、わずかな硬直が生じた。

 チャンス。

 私は切っ先に足をのせた状態から身を躍らせて落下しつつ、全身をベアリングのように回転するとサマーソルトキックを繰りだす。

 鋭利なサムライブレードをすり抜け、木蓮の腰骨付近に直撃した。体をのけ反らせ、木蓮が宙に浮く。HPもぐっと減った。残りは三割弱といったところか。

 木蓮が眉根を寄せ、小さく舌打ちする。

「ちっ、小癪こしゃくな!」

 涼しい顔が急に険しくなった。寡黙かもくなサムライが初めてえた瞬間だった。

 だが、大ダメージを与えて余裕を失わせたまではいいが、また距離が開いては意味がない。私は即座に木蓮のビキニに取りつく。

 そのまま体を引き寄せ彼女の左腕に両脚を絡めた。

 関節が折れる鈍い音。

 ひじをキメてさらなるダメージを追加する。

 あとは押し倒してマウントポジションをとればタコ殴りにしてやるだけだ。

 勝利までの道筋がみえたかに思えた瞬間――

 光速の閃きが木蓮の腕を通過する気配を感じた。

 私は瞬間的に両脚を緩め、身を離す。無重力状態になり、続いて落下していくなかでサムライが取った意外な策を眼にした。

 木蓮は己の片腕に刃を突き立て、そのまま一切ためらうことなく振り下ろしたのだ。

 鮮やかな切り口には一切の躊躇ためらいがない。

 私を狙ったのだろうが、自分自身を傷つけることさえ厭わない見事なひと振りだった。

 自傷行為はマリオネット三原則に反するのではないか――

 そんな考えが過ったが、彼女の行動は抵触しない。局所的なダメージのみに留め、全体が崩壊することを防いだのだ。

 だが、頭でわかっていてもなかなか実行に移せるものではない。

 その胆力たんりょくには圧倒させられる。改めて強敵だと認識せざるを得なかった。

 木蓮は、胴体から左腕が完全に離れると、己の一部だったモノには一瞥いちべつもくれず、隻腕せきわんを突き出した。

 私は、木蓮の一部だったモノを盾にし、喉元に迫る決死の一撃をガードした。切断面から手首までが串刺しになり、歯車やリベットが飛び散る。衝撃が弱まったところで木蓮の掌にかかとをのせ、切っ先を喰いとめた。

 脚で受ければ攻撃は防げる。

 切れない刀など恐れるに足りない。

 着地するとすぐさま身をひるがえし跳びかかった。

 現状互いに片腕の自由が利かないイーブンだ。ここが勝負所と判断し、一気呵成いっきかせいに攻めたてる。

 激しいSPの消耗と引き換えに、クリティカルを与えてHPを削り切る。

 私は両脚に全神経を集中させて蹴り技の連続攻撃を仕掛けた。

 木蓮もまた、かまえを変え、突き技のみを繰り出してくる。

 その度にはじき返されるがそれでも攻撃を緩めない。

 互いに決着が近いと感じている。

 木蓮の突きは斬撃よりはるかに威力を増している。得物に憑かれたようにその先端までが彼女の一部となったかのように研ぎ澄まされていた。

 手数を増やしつつも一撃必殺を狙っているのがわかる。

 だがそれは私も同じだ。

 互いに相手の隙を作ろうとギアをぶつけ合う。

 がりがりポイントを削りつつ最後のチャンスを待つ。そして――

 激しい応酬を繰り広げるなか、先に虚を突かれたのは私のほうだった。

 土踏まずに違和感が広がり、ギアが悲鳴を上げ始めた。これは――

「しまった、金属疲労!?」

 わずかに勝っているかに思えた強度が、何度も同じ個所で攻撃を受け続けたために穴が空いたのだ。

 それが木蓮の狙いとわかったときにはもうすでに手遅れだった。

 サムライブレードがサンダルを貫通し、飛び蹴りを見舞う私の脚裏に突き刺さる。

 木蓮はさらに柄頭つかがしら掌底しょうていをあて、前傾姿勢となって押し込む。そして私の脚が――、

 人工皮膚が破れ、

 骨格金属に亀裂が走り、

 ネジが外れて導線が千切れる。

 ふくらはぎの辺りで摩擦が起こり、散った火花で発火する。

 致命的な一撃だ。

 HPが一気に減少していく。

 刀身が膝を突き抜けたところで私は上体をかがめて身を丸めた。

「心も折れたか。だが容赦はせん。その首もらった!」

 木蓮は渾身の笑みを浮かべ、ここぞとばかりにつばを返し、決着の一撃が振り抜かれる。だが――

「なっ――!?」

 木蓮が眼を見張った。

「刀が、ギアが動かない!」

 否――、私がその切っ先を握りしめ、取り押さえているのだ。片脚と左手を犠牲にし、ようやくギアを封じることができた。

 刀を引き抜こうと木蓮が腕を引く。

 それをさせまいと私も力を込める。

 互いにサムライブレードを引き合い、ショートレンジに。

 ようやく私の間合いとなった。

 これがラストチャンス。

 私はすべての蒸気を吐きだしてえる。

 全体重をのせた右ストレートを木蓮のみぞおちめがけて放った。

「ぐはッ!」

 それは見事にクリーンヒットし、木蓮を場外まで弾き飛ばした。

 同時に、私はリングに着地するとその場に崩れ落ちた。

 片脚を失い、蒸気も底をついた。エネルギー源を失ってはとても自律していられない。

 私は倒れ込み私は頭上を見上げた。そこには両者のHPが表示されており、いずれも減り続けている。

 互いに残り一割を切ってほぼ横並びの状態。どちらもゼロになることは確実だが、先に尽きるのはどちらなのか……私は一堂ともども固唾を呑んで見守る。そして――

 判定の文字が巨大スクリーンに映し出された。

「勝者、勿忘草!!」

 アナウンサーが勝者の名を高らかに叫んだ。

 それ聞いて私は胸に手をあてる。ミズギの真ん中には真っ白なゼッケンが縫いつけられており、私と同じ花の名前がひらがなで書かれている。どうやら私のことで間違いなさそうだ。

 その奥でキズナもちゃんと息づいている。

 ちゃんと生きている。

 ご主人様はまた、ボロボロになったこのボディをみて心配するのだろうが、私が安心して闘えるのはご主人様の腕を信じているからだ。辛勝しんしょうだったとはいえ、これで良い報告ができる。

 木蓮がリングに上がってきた。

 刀をさやに納め、こちらに歩いてくる。

 ふたりとも満身創痍まんしんそういではあるが、最後はエンターテイナーらしくマイクパフォーマンスで締めくくるつもりらしい。

「参ったな。勝利を得るために己の一部を犠牲にするとは……」

「なに、貴様のブシドーを見習ったまでさ。貴様こそ、なぜ最後まで刀を離さなかった? そうすれば避けられただろうに」

「これはご主人様から与った大切なギアだからな。こいつを手離すということは我が主との絆を断つことに等しい。それは死んでも御免だよ」

「それはそれは……たいした絆だな」

「勿忘草殿こそ。次はもっと精進してから挑むとしよう」

「ああ、歯車磨いて出直すがいい」

「新たな女王の誕生を楽しみにしているよ」

「任せておけ」

 そう言って私は小さく鼻を鳴らす。安堵あんどのため息と悟られないよう、精いっぱいの虚勢きょせいを張りながら。

 笑顔で差し出された木蓮の手に応える。彼女の助けを借り、肩につかまって立ち上がる。客席全体からスタンディングオベーションがわき起こるなか、勝ち名乗りをあげた。

 幕が下りるなか喝采かっさいを浴びながら、私は舞台をおりた。

 舞台袖にはご主人様の姿が。

 その姿をみて一気に力が抜けた。糸が切れた操り人形のように倒れ込む。だが、やさしい傀儡師がそれを受けとめた。

「また無茶な戦い方をして……ほんとうによくがんばったな。勿忘草」

 そう言って私の髪を撫でる。

 女王になることよりも自由を得るよりも、この瞬間のために私は闘っているのかもしれない。

「ふん、これくらい何でもないさ」

 くちではそううそぶきつつも、ご主人様の腕に抱かれると私は安心してスリープモードへと移行した。

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