【読書感想文】幽霊を創出したのは誰か? 著:森博嗣

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作品の概略

遊び心
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 本作は、新しい人間が生まれなくなった近未来で起きるミステリー『WWシリーズ』の4作目になります。

 寿命はかぎりなく無限に近づき、また、ウォーカロンと呼ばれる次世代の人間や人工知能などが存在しています。

 人の価値が失われつつある近未来で、リアルの延長として現実味を感じさせるSFとミステリーが融合した作品となっています。

読書感想文(感想・レビュー・まとめなど)

幽霊の存在証明は可能か?

遊び心
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 作品を語る前提条件として先ず、ボクは基本的に幽霊の存在を信じていません。

 基本的に、と前置きするのは要するに『証明できない』からです。

 無いものを無いと証明することはできませんが、少なくともリアルには存在していないと考えています。

 では、どこになら存在しているのでしょう?

 たとえば、空の上に在るのは天国ではなく宇宙ですし、地面の下に在るのは地獄ではなく地核です。

 いずれも実際に見たわけではありません。ただ、そう教えられたからそう信じているだけです。

 天国も宇宙も、地獄も地核も、言葉や文字・図解などからボクの頭のなかで展開、あるいは想起されるイメージ、形而上的な存在でしかないのです。

 ボクと同じように、無いと信じている人の頭のなかには存在していないし、逆に、在ると信じる人の頭のなかには存在している、と考えています。もちろん、これは証明できません。

遊び心
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 他人の頭のなかは覗けませんからね(;^ω^)

幽霊は人間が創った著作物

 人間は、リアルには無い存在を創ることができます。

 人間が創ったものは何でしょう?

 それは物語です。

 道具は言葉でした。

 はじめに言葉があり、それが文字を生み、図解を生み、今ではコンピュータもつくられました。物語の元は、分解すればすべてただの言葉であり、文字であり、信号なのです。今ではデジタル化されデータにもなっています。

 これらを使って人間は、赤い木の実をリンゴと名付け、定義し、ラベリングし、レッテルを貼っています。そうやってタグ付けした無数のパーツを使い、物語を伝達・共有しているのです。

遊び心
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 物語は、個人の頭のなかで創られた空想の産物にすぎません。

 しかし、伝達の上手いひとはこれを他人に信じさせることができます。バーチャルをリアルに展開し、それを共有する能力が人間には備わっているのです。

 ここで問題になるのが、これらの道具をすべてのひとが上手く使いこなせるわけではないという点です。

 あるときAさんは、亡くなったBさんに生き返ってほしくて物語を創りました。

 『Bさんは生きている。ほら、あそこにいるじゃないか』

 Aさん以外には誰にも見えていません。Aさんだけが見えていて、他のひとには見えていないのです。

 情報は伝送過程で劣化します。

 100%伝わるなどという考えこそ、まさに幻想といえるでしょう。

 ですが、まったく伝わらないわけでもありません。

 必死なAさんを見ているうちに『もしかしてBさんは本当にそこにいるのかな?』と疑う者も現れるでしょう。繰り返すうちにやがて『いるかもしれない』から『いるだろう』、そして『いるに違いない』へと発展していくわけです。

 実際にはAさん以外だれも見ていない、存在していないにもかかわらず、です。

遊び心
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 この、中途半端に伝わった情報こそが幽霊の正体だとボクは考えています。

人間は物語を必要としている

 では、なぜAさんは幽霊を創ったのでしょう?

 その理由はかんたん。

遊び心
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 人間は『物語を必要としている』からです。

 AさんはBさんが亡くなったことを受け入れることができませんでした。

 リアルで起きた出来事をありのまま直視することができなかったのです。

 その事実を認めたくなくて、Bさんが存在する理由を創ったわけです。

 ですが、自分だけが信じている状態だけでは心許ありません。みんなが自分の意見を信じてくれれば、Bさんが生きている説はより強固なモノになるでしょう。創作を真実にするため、周囲の人にも説いてまわるわけです。

 こうして物語は共同幻想となり、リアルな存在として認識されるのです。

バーチャル=あの世?

 人間はふたつの世界を同時に生きています。

 ひとつは外側に見える現実世界

 もうひとつは脳の内側に広がる個人的な世界です。

 外側はリアルで内側はバーチャルと言い換えることもできるでしょう。

 ここでもし、幽霊がバーチャルな世界で創られたのだと仮定したら、個人の頭のなかこそがあの世ということになりはしないでしょうか? 

 あの世とこの世の境界線は曖昧あいまいです。情報は、一度脳に入ってしまうと、現実なのか虚構なのか、その区別がつかなくなるのです。

遊び心
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 リアルがバーチャルに侵食されてしまうんだ。

まとめ 物語からの脱出が鍵となる

 前提条件が長くなりました。

 まとめとして、物語のポイントをまとめます。

遊び心
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 人間は、一度創った物語、つまり『共同幻想の支配からの脱出はかんたんではない』ということ。

 常識や固定観念と言い換えても良いでしょう。

 これらから逃れるためには、自分の脳から完全に脱出しなくてはなりません。

 それは果たして可能でしょうか? 

 現実では『死』以外方法はありません。

 ですが、本作では違います。

 人間の頭のなか、つまりバーチャルな世界をコンピュータ上でデジタルとして再現することができます。

 人類はそのバーチャルな世界へとシフトしようとしています。

 この世からあの世へと移り住もうとしています。

 これは2020年現在ではまだ実行不可能でしょう。それこそ死ぬ以外には。

 ですが、100年後はわかりません。

 作中でもまだ、リアルのボディを捨て、バーチャルに移動するには抵抗を感じている過渡期となっています。

 それでもいずれは実現する。まさに物語が現実になるだろうと、そんな気配を感じざるを得ない一作でした。

遊び心
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 あなたが信じてくれたなら、物語は本物になります。

 

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